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SCENE16 神奈川県警女子寮
シャワーを終え、ゆとりのあるジャージを身につけると、夏美は冷蔵庫を開けた。
ビールなどアルコール類は、この間の失態以降控えている。ミネラルウオーターのペットボトルを取り出し、ゴクゴクと飲んだ。
ふうっ、と一息つく。
週刊潮流を訪れた後は、別の案件を扱った。たまっている報告書を作成したりもしていた。なので、とりあえず頭の隅にしまっておいたのだが、どうしても澱のように心の奥に漂う不安があった。
ファントム、か……。
とんでもない話を聞いてしまった。そんな恐ろしい組織が、日本にも入り込んでいるなんて……。しかも、今調べている件に繋がっているのかもしれない。
ミネラルウオーターを飲み干した。残されたペットボトルがあまりにも柔らかく、危うげな感覚が強まっていく。
ジージーと妙な音がして息を呑む。聞こえてくる方を見ると、テーブル上のスマホが震えていた。捜査中はいきなり音がすると困るので、常にバイブのみにしている。仕事を終えてもそのままのことが多い。
手に取りモニターを見ると、鷹西の名前が表示されていた。
えっ?!
慌てる夏美。こんな格好で……と身なりを見直す。ヨレヨレのジャージ姿など見せられたものじゃないと思ったところで、電話だったと気づき力が抜けた。
気をとり直してタップする。
「あっ、あの、俺だけど……」
かけてきたくせになぜか辿々しい鷹西の声に、思わず吹き出しそうになった。
「俺、って言われても……?」
ちょっと意地悪したくなって、怪訝そうな声を返す。
「いや、あの、鷹西だけど……」
フッと笑い、そして「わかってますよ」
「なんだよ。気づいてたんじゃないか」
グッと横目で睨んでくるような表情が思い浮かぶ。ますますおかしくなる。数日会っていないだけだが、懐かしく感じた。
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