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よもつひらさか 2丁目
(――あれ、誰もいない?)
ぐっと視線を下におろす。そこに立っていたのは小さな子供だ。
小学校低学年ぐらいの男の子。
流行りのアニメキャラクターのTシャツに青い半ズボン。
なぜか、一人でそこに立っていた。
「お客さんですよ」
柔らかく微笑んでオーナーが促す。
瑞樹はあわてて店の真ん中の席に案内する。
(こんな小さな子が一人で来る店じゃない気がするんだけど……?)
顔に笑顔を張り付けて、心の内で小首をかしげた。
男の子はちょこんと椅子に座って行儀悪く足をぷらぷらしている。
(もしかしたら待ち合わせかも知れないし、小さくたってお客様だ)
「ご注文は?」
にっこり笑顔で腰をかがめて視線を合わせるようにして問うた。
「オレンジジュース」
ちらと顔を上げてあたしを見るとすぐに視線を逸らせてぶっきらぼうに答える。
少し尖った口元が強がっているようでくすぐったい。
(かわいい。確か甥っ子がこのくらいの年だったかな)
こっちの専門学校に進学してそのまま就職した。
気がついたら何年も帰省してない。
――本音は毎年でも実家に帰りたい。
(でも、実家には兄と兄嫁がいて二人の甥っ子と姪っ子がいる)
あの家はいつも幸せそうで疫病神体質の瑞樹は胸が痛くなる。
(自分もあのくらいの子供がいてもおかしくない年なんだよね……)
行き遅れを実感する瑞樹に両親は風当たりが厳しい。
感慨深く物思いにふけった自分はどこかへ放置することにして仕事に集中する。
男の子はよほど喉が渇いていたのか届いたばかりのオレンジジュースにストローを突っ込んで蝶が蜜を吸うように一気に吸い上げた。
あっという間に氷だけになって、コップの中でストローがじゅるじゅると音を立てる。
びっくりして見ているとストローを咥えたまま男の子はにいっと人懐っこく笑った。
――いつまでたっても家族が来ない。
(小さな子供一人では不安ではないのだろうか?)
「待ちあわせ?」
隣に腰を落として見上げる態勢で声をかけた。
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