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瑞樹はカウンターの中でカップを片付けながら店内を確認する。
二人掛けのテーブルが五つのみ。
ゆったりとしたこの店を訪れる客は、なぜかお会計をしない。
(新手のボランティアかしら?)
店の雰囲気もいい。家賃も高そうだ。何とも不思議な店だ。
(ちゃんと給料払ってくれるよね?)
少しだけ不安になった瑞樹の背中で涼やかなドアベルの音が響いた。
扉の所に立つのは髪の長い若い女性。
まだ若い栗色の巻き毛のかわいらしい女性だ。
店に入ろうとして迷っている様子がうかがえる。
「――すみません、今いっぱいで」
慌ててカウンターを飛び出し、店内へ案内しようとしたらオーナーの断る声が。
(なんと、この店は客を選ぶのか!)
瑞樹が小首をかしげて振り返るが気にも留めていない。
店内は二席が埋まっているだけでどう見てもガラガラだ。
戸惑う自分の横をすり抜けて戸口に立つと、柔らかな物腰で頭を下げる。
「あなたはここにいらっしゃるには少し早いようです」
「……仕方ないですね」
女性は残念そうに微笑むと軽く頭を下げて、立ち去った。
瑞樹は首をかしげて遠ざかる背中を見送って問う。
「――席は空いてますよ?」
「いいんです。彼女はまだここへ来てはいけない人なんです」
(来てはいけない?)
意味が分からず難しい顔になってオーナーの隣で小首をかしげた。
「このコーヒーをあの窓際の女性へお願いしますね」
ぼんやりと窓の外を眺める中年の女性へ視線を投げる。
(何とも不思議な店だ)
出すのはコーヒーや紅茶、子供向けにはジュース。
接客はオーナーが選んで招き入れられた客に飲み物を届けて声をかけ、話をする。それだけだ。
「お疲れさま。ありがとう助かったよ。でも、君は本当はここに来るべきじゃなかった人だ。これ以上ここに引き留める理由もない。君はまだ間に合う」
(言われている意味が分からない)
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