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血が足りないのかまるで貧血のようにぐるりと世界が回る。足元がふわふわしてきつく目を閉じた。
次に目を開けたとき、瑞樹は広い道路の真ん中に立っていた。
大きな道路だが車は全くいない。
休日の歩行者天国のようにゆったりとこちらへ歩いてくる人の波。
「君はこっちにいてはいけない」
耳元でオーナーの声がする。振り返ろうとするのを制するように言葉を継ぐ。
「張り紙が見えた君は川を渡ってはいけない」
「川?」
「あれは未練がある人が留まるための物だ。向こう岸がどんなに魅力的でも行っちゃダメだ」
有無を言わせぬ声だった。
瑞樹の視界が真っ白に塗りつぶされ、眩しい。
深い水底から引き上げられるような感覚を経て全身の痛みに顔をしかめた。
――震える瞼をこじ開け、確認する。
ぼんやり霞んだ視界に飛び込んできたのは白い天井。
暗く視界を遮ったのは、母の顔。なぜか目が赤い。
起き上がろうとしたが、叶わなかった。
(全身が痛い!)
あらためて気づくと頬にゴワゴワとしたガーゼの感触。とにかく薬くさい。
「あんたって子は……!」
遅れて記憶がつながる。
視界いっぱいに突き刺さる強い光。
それが車のライトだと気づいたときには遅かったらしい。
(多分、その時、あたしは死んだ)
――正確には死にかけた。あそこでバイトしたのは半日ほどのつもりだった。
驚いたことに一週間、生死の境をさまよっていたらしい。
(あの世でもブラック企業にお勤めしたの!? バイトの報酬は……!!)
「瑞樹も意地張ってないで仕事が見つかるまでウチに帰ってくればいいじゃないの!」
母の声が胸に突き刺さる。実家は自分の帰りたかった場所だ。
(一番、素直でなかったのは自分かもしれない)
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