花鳥諷詠 アメツチの姫君

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私の怪我は軽傷だった。骨にヒビが入っていたようでしばらく通院する事になった。 「車玄関につけてきたから」 病院のロビーから水野さんに車椅子を押され車に向かう。 「ご両親に連絡はしたけれど此方にはすぐに来られないそうで」 「だと思います海外ですし」 心配はしてくれているのだとは思うが海外ではおいそれとは駆けつけられないだろう。 さっきのあれは一体なんだったのだろうか。これまでは自然現象のように発生したという印象だった。でもさっきのは無機質な鉄パイプがまるで意志を持っているかのように襲い掛かってきた。走馬灯となって先刻の出来事が頭の中で再生され思わず自分を抱きしめる。数えきれないくらい怪奇現象には遭遇してきたけれど私自身に被害はなく私のそばにいた人が被害に合っていた。 でもさっきのは明らかに私を狙っていた。やっぱり今までの現象もすべて私が狙いだったのだろうか。龍士に迷惑を掛けたくなくてひとりで行ったのにそのちっぽけなエゴのせいで彼にひどい怪我を負わせてしまった。彼は今もベッドの上で眠っている。私が狙いなら私だけに矛先を向ければいいのに無関係の人間を巻き込まないで欲しい。得体の知れない大きな力が動いているとしか思えない、四神相応の結界が崩れているから?これも清流河の祟りなの?ぐちゃぐちゃとたくさんの思考が一気に頭の中で混ざっていく。 「・・・・・・うっ」 嗚咽が漏れる。頭がいっぱいで何を考えているのかさえ分からなくなった。めいっぱいの感情が行き場を失くして一気に溢れ出る。自分の不甲斐無さにうつむいて溢れるものにただ流されるしかできない。手で顔を覆うとまだ彼の血の匂いと感触が残っていて余計に涙を後押しした。 ふわ、と髪をやさしく包む感触がして顔を上げる。涙で滲んで輪郭はぼやけていたけど水野さんの顔が目の前にあった。甘い香りが鼻孔に広がるのを感じた。 「約束通りオールドローズだよ」 水野さんが私の手に花を握らせそのまま私の手を温かい手で包んだ。 「真菜ちゃんが無事でよかったって群青くんも思っているよ。」 泣き止んだ子供の様に花を見つめる。涙でずれたピント越しに咲き誇る花は今朝と同じ優しい香りを放っていた。
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