花鳥諷詠 アメツチの姫君

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ガラリと教室の前と後ろのドアを開けて私は後ろのドアから入った。クラスメートたちはひとりたりとも反応しない。最初は偶然という言葉で不安を包んでいたクラスメートたちも、それが包みきれなくなると私に近づかなくなった。この手の話はすぐに広まる。全校生徒が私を遠ざけるようになった。 「ハ~イみなさんおはようございま~す今日は郷土の歴史についてですよ~~~」 テンション十割増しの胡渡先生の声が教室中に響く。焦りながら教科書を机に出した。 (・・・・・・あ) 机の端にチョークの粉が付いている今日もまた落書きがされていたみたいだ。内容は下駄箱に入れられていた紙と同じだろう、跡形も無く消されているけど。隣で机に頭を突っ伏して授業を聞こうとするカケラもない黒服の男子に話しかける。 「黒﨑くん、袖真っ白だよ」 「んー・・・・・・おまえ、また遅刻かよ」 「自慢の一張羅汚しちゃってごめんね」 ふあぁと欠伸をして黒崎くんは椅子の背に凭れ掛って寝始めてしまった。濡れ羽色の学ランに蛇皮の装飾が艶かしい光を放っている。無口でこの出で立ちなので校内では有名人。コワいと噂されているけど私にとっては唯一ふつうに会話してくれるクラスメートだ。教室内でもラップ音は鳴りやまず今は黒﨑くんの頭上でガンガン鳴っている。ヒソヒソと話したり私に嫌悪の眼差しを向けるクラスメートもいる中で隣の彼は気にも留めず気持ちよさそうにくーくー寝息を立てている。 「かつてこの地域には平安京・江戸と同じく四神相応の黄鸝が奠都されていました。四神相応とは風水では最高の吉相といわれる、東に豊かな流れの河、西に大きな道、南に広大な平野・海、北に巨大な山のある地形の事です。清流河、白蓮大路、紅池、亀甲山がそれにあたいします。因みに豊臣秀吉は四神相応を守らなかった為三日天下に終わったといわれていますね~~~」 (うわ、胡渡先生キラキラしてる) 胡渡先生は風水が趣味で多くの流派を研究している。非科学的な事は信じないが風水は自然科学であり数学理論と同じだと言っていた。教室の後方から発せられる騒音などお構いなしに授業を続行している。 「黄鸝の各方位には四神獣を守護神とする大名屋敷があり中央の藩主の城に仕えていました。長きに渡り藩主一族は都を治め繁栄させて来ましたが、あるとき急な大火事により落城したといわれています。原因は四神相応の結界が破られたから、ともいわれています」 四神相応の結界とは、と胡渡先生は黒板に東・西・南・北の文字をそれぞれダイヤ形の各頂点に位置するように書き文字同士を線で結んだ。
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