花鳥諷詠 アメツチの姫君

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昼休み。私は中庭にある大木の下のサークルベンチに座り胡渡先生に渡された本を読んでいた。かなり古い本らしくあちこちが黄ばんだり色褪せたりしている。紅 雀という人が書いた本で授業に出てきた都の歴史と四神相応の詳細が載っている。 『四方の大名家は四神獣家と呼ばれ、かつて清流河沿いにあった応龍を守護神とする雷家は四神獣家の長であり藩主の黄家とは密接な関係にあったという。それ故か黄家滅亡の切欠を作ったともいわれている―――。』 (また東) 偶然だろうけどやたらと一致する点があるように思える。考え過ぎだよねと自分に言い聞かせていると腰のあたりに何かがしがみついてきた。 「朱櫻せんぱーい!」 「わあぁっ!」 見ると満面の笑みを浮かべる後輩の顔があった。 「秋仁くん、また琥太郎くんのふりしているの」 此方に平然と歩いて来る私にしがみついた男の子とそっくりなもう一人の後輩に声を掛ける。 「だから言っただろアキヒト。シュオウ先輩には通用しないって」 不服そうな声で私に抱き付いていた琥太郎くんが赤面しながら離れる。すみませんという声が聞こえた。 「ちぇー、せっかく油性マジックで黒子まで描いたのにさぁ」 たった一秒前まで能面みたいな顔を作っていた秋仁くんがいつもの百面相に戻ってその場に座り込んだ。 「秋仁くん、琥太郎くんはそんなに仏頂面じゃないよ」 「エエ―!?コイツいっつもサイボーグ面してんじゃんっ!」 「アキヒト、先輩には敬語使いなよ」 並ぶと鏡に映したようなふたり。殆どの人は見分けがつかないらしく今みたいによく入れ替わって驚かしている。私には秋仁くんは秋仁くん、琥太郎くんは琥太郎くんにしか見えないけれど。 「くっそぉ~琥太郎てめぇもっと笑え!」 「アキヒトうるさい」 秋仁くんに胸ぐらを掴まれ揺さぶられても当の琥太郎くんはいつものドライな反応。ふたりとも可愛い後輩である。だからこそ遠ざけておきたい。 「雨?」 空から何か降ってきた。 雹がばらばらと石つぶてのように降り注ぐ。空は朝と同じ快晴なのに私たち3人のいる中庭にだけ落ちてきている。 「櫻せんぱいこんなのヘーキだって!」 「天気雨と同じですよ」 ふたりは制服のジャケットを頭に被って笑う。対照的なふたりだけど太陽のような雰囲気は共通するところがある。その明るさに救われたことも多い。 「うへぇ~おれ無理かも」 「かもじゃなくて無理だろ」 私の手元にある本を覗き込むふたり。秋仁くんは大嫌いなピーマンを目の前にしたときの顔をしている。私は今日の授業の事を話した。 「あ~そーいや東ビルってやべぇ噂あるじゃん」 「ああ、確か無人解体」 「無人解体?」 不気味な単語が琥太郎くんの口から発せられる。 「ここ数か月、前日にまだ解体していなかった部分が翌日には崩れ落ちているんだそうです」 「ボロいから崩れただけなんじゃん」 「崩れ落ちた部分は鋭利な刃物で切断されたような跡があったそうです」 秋仁くんの発言を遮るように琥太郎くんは話を進める。 「解体作業中もケガ人が続出していてこのまま続行するかどうか揉めているらしいですよ」 琥太郎君の地獄耳にはいつも感心させられる。やっぱり四神相応の結界が崩れている影響なのだろうか。 「あと着工が遅くなったのも昔あった清流河の祟りじゃないかって噂もあります」 祟り――――――。 完全なるオカルト現象だけど東ビルは清流河沿いにあった大名家跡地に建てられた。清流河は何十年も前に埋め立てられてしまっているし、祟りとか噂が立つのも無理ないかもしれない。そういう類ではありそうな話だ。 「あのにこにこメガネ胡散臭いんだよなー。ふーすいとオカルト、なぁにがちがうってんだよー」 「アキヒト、風水は自然科学だよ。科学で証明出来てないのは一緒だけど」 邪魔者は退散しま~すとふたりは走り去って行った。入れ替わりに龍士がこっちに歩いて来る。
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