花鳥諷詠 アメツチの姫君

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空がオレンジ色と青色のグラデーションを描き始める頃私は敵陣に乗り込む武士のような気持で東ビルへと向かった。考え過ぎかもしれないが今日胡渡先生が授業で言っていた事、借りた本に書かれていた事、東ビルの噂。私の身の回りで起きる不可解な現象と関係が無いとは言い切れない。怪奇現象が起こるようになったのはあの悪夢を見始めてから、東ビルの解体工事が始まってからだった。このまま訳の分からない状態にずっと振り回されるのはごめんだ。そんな歯痒さから早く解放されたい何か手がかりをつかみたい、その一心だった。 工事が始まってから初めてそばでまじまじと見上げた33階建ての東ビルは圧迫感たっぷりにそびえていた。暗くなってきているので人通りは殆どなく気味が悪い。当然建物の周りを歩き回ってみても入れるようなところはない。 (無駄足だったかも) いや何かあっても困るけれど。 収穫はなかったけど思った通りに行動したことで少し気が晴れた。龍士怒っているよね、そう思い踵を返したときだった。突如竜巻のような突風が巻き起こり私の身体を宙に放り投げた。無重力に翻弄されながら私の身体は下へと叩きつけられた。ドンっと身体に大きな衝撃が走る。やっと立ち上がり周囲を見回すが真っ暗で何も見えない。ひゅううと上の方から風が吹き下ろされてくる。見上げるとすごく遠くに真っ暗な夜の空が四角いフレームから覗く。東ビルの中らしいどうしよう出口を探さなければ、ふらふらとあてもなく歩き始めたとき脚に激痛が走った。 「――――――ッ!?」 何か固いもので殴打されたような感触。その場に倒れこみ脚をおさえる。 カラン、という音が耳に入って来た。次の瞬間私は自分の目を疑った。 鉄パイプがひとりでに立ってこちらへ近づいてくる目を凝らすと一本二本ではない。 恐らく工事現場に置いてあるもの全部ではないかという数。操り人形のような不気味さをたたえている。脚をおさえながらずりずりと座り込んだ体勢で動くが鉄パイプたちは容赦なく距離を詰めてくる。今度襲われたらただでは済まない。ダメージを最小限に抑える方法はないか考えようとしても鉄パイプに襲われるという非現実的なこの状況と脚の痛みで混乱して何も出てこない。無意味な葛藤も虚しく無機質な軍勢は標的目掛けて襲い掛かってきた。反射的に目をぎゅうっとつぶる。瞬間強い力に身体を覆われ背中に地面を感じ、鈍い音を全身に受けた。
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