花鳥諷詠 アメツチの姫君

1/12
前へ
/12ページ
次へ
(――――――なに?) 轟音と灼熱の風、むせかえる何かが燃えるような匂い。 目を開けるとすべて赤赤赤赤それ以上何も見えないくらい紅蓮の炎が轟々と渦巻いている。呆然と立ち尽くしていると燃え盛る炎越しに人の手らしきものが陽炎のように蠢き叫び声が聞こえた。炎熱地獄のようなありさまに恐ろしくなり耳を塞いで目をつぶり蹲った。焦熱で我に返り再び目を開けると私は業火に飲み込まれていた。無我夢中でもがいて叫ぶ。熱風で喉が焼け付き炎光に目が眩む。 ぐらり、暗転する世界。 その刹那、炎とは違う温かい熱を腕に感じた。うっすらとした視界に誰かの手が見えた気がした。目を凝らした瞬間私の身体は黄色い光に包まれてはじき出された。 ――――――ガバッ! その衝撃で飛び起きるといつもの私室の風景。真夏の熱帯夜から目覚めたように、汗でパジャマが皮膚にべったりと張り付いている。目覚まし時計の針を見ると遅刻が決定しそうな時刻をさしていた。 (またか) もうこのままベッドで二度寝してしまおうか、そんな考えに身を任せ再び瞼が落ち始めたら携帯が鳴った。仕方なく出るものの、いつもこの時間にかけてくるのは一人しかいない。 「真菜、今何処だ」 「家のベッド」 「早々に登校するように」 「わかったってば龍士の過保護」 一学年上の幼馴染である龍士は剣道部の朝練終了後必ず私の携帯に連絡してくる。 (私が登校しない方が龍士にとってもいいんだと思うんだけどな) 気が進まないが休んだら休んだであの幼馴染は看病に押しかけて来るに決まってる。 幼馴染というよりおかあさんみたいだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加