第一章 ― 罠 ―

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 その表情に何かを察したのか、所長はグラスを回しながら更に微笑みを浮かべる。 「柳沼大臣はその男を潰したい。そう仰っておった」 「潰す?」  大臣の計画によると、総理推薦で収容された男を潰し刑務所収容の極悪人を操りリーダー格へと育て上げるとの事だった。 「工藤、柳沼大臣は欲しいんだよ。犯罪者集団による特殊部隊の実権を!」  悪の根源である極悪囚人、彼らを塀の中で拘束する訳ではなく、一つの人的兵器として扱う計画。実権を握る事により反政府軍の殺害は合法化され、総理の暗殺も可能となる。 『柳沼大臣は総理の席を、所長は大臣の席を、そしてこの俺は……、所長としてその席に――』  表情が一変した工藤の鋭い眼差しに全てを察した所長は彼の肩に手を置き、飲みかけのウイスキーグラスを手渡した。 「ゴクゴクゴクッ、カランッ――」  まるでヤクザの盃を交わす様に飲み干されたグラスのウイスキー。琥珀色は消え去り解けゆく氷が無色透明の新たな液体(れきし)を生み出してゆく。 「工藤仕事だ! 柳沼大臣がご納得される新たなリーダーを囚人の中から選出しろ。死刑囚でも構わんっ! 総理側近の候補者と争わせ略奪する」  工藤の表情が悪魔の様に変貌してゆく――。 「それなら数名、既に候補者は絞り込みました。全て私にお任せください」  席を立つ工藤、敬礼し部屋を後にする。 「工藤、例の記者、殺すなよ」 「……ふっ、 それは半殺しまでは了承したと捉えます」 「囚人以上に悪い看守だ」 「お褒め頂き光栄です」  法務大臣柳沼の指示による地下刑務所内極秘計画はこうして始まりを迎えた。
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