第一章 ― 罠 ―

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 仕事を終え帰宅する通勤電車車内。新聞社での泊まり込みが多い中、この日は偶然最終電車に飛び込み乗る事が出来た。  揺れ動く車内で吊革を握りしめる。足元には洗濯物を詰め込んだスポーツバッグ。都心から離れる程、乗客の数は減り運よく空いた目の前の席に座ると心地よい揺れが眠気を誘う。 「プシュ――ッ、ガタンッ」 「ドンッ! 失礼っ」  男が足元のスポーツバッグに足を取られたのか、微かな衝撃と詫びを入れた声に目を覚ます。 「あれっ。ここ何処だ?」 「プシュ――ッ、ガタンッ」  やがて動き出す車両、車内アナウンスから二駅手前である事を寝ぼけた脳が理解した。 「ふっ、貸切りみたいだな」  乗客は自らを含めたったの三名。床に置いたバッグを手に隣の座席へ置こうとした時、無造作に置かれた小さな文庫本に視線を奪われる。恐らく先程ぶつかり慌てて電車を降りた男の忘れ物だろうと直ぐに察したが、英字新聞で作られたブックカバーが妙に興味をそそる。 「ニューヨーク紙、しかも今日の日付の新聞――」  当日の外国新聞をブックカバーに使う男。やり手のビジネスマン、あるいは同業者か? 膨れ上がる記者心理からカバーに隠された書籍の真相に興味がそそられた直後、漣はその本を手にしていた。 「なんだ……、これ……」
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