第一章 ― 罠 ―

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 指先に伝わる解錠の手応え、ゆっくりと開かれた扉の中には無造作に置かれクシャクシャにされたA四サイズ程の大きさの茶封筒。左手で取り出すと指先から腕にかけ重さが伝わる。 「まさか……」  右手を袋の口元へ添え、丸められた封筒の口を広げてゆくと微かに感じる火薬臭と、袋ごしにもわかる重く冷たい金属の塊。 『拳銃――』  完全に開封する前に全てを悟った直後――、 改札口のロッカー背後から怒号が響いた。 「動くな! 警察や!!」    職務質問なく張り込まれた状況と威嚇なく後頭部に押し付けられた銃口。 「誰の仕業だ! こんな糞トラップ!」 「うるさいっ! 銃刀法違反、緊急逮捕する」  全てが異常だった。取り調べなく弁護士接見も無い。護送される場所は留置所ではなく、裁判も行われないまま刑務所直行。 『誰が……、一体何のためにこの俺を地下刑務所に――』  独房で眠りにつく漣は夢の中で記憶を(さかのぼ)る。 『囚人番号八百十七――、奇しくもロッカー番号と同一。 こんな粋なトラップを仕掛けられ、警察、刑務所、国家機関を自由に操れる存在。 政府上層部の権力者の仕業……、 まさか彩希が絡んでいるのか? だとすると何か理由がある筈――』  真相を暴く事が出来ないまま、漣は深い眠りへと落ちてゆく。  
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