第一章 ― 罠 ―

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第一章 ― 罠 ―

 総理と女性秘書彩希により密かに計画された罪人による特殊部隊の創設。彼女は総理に対し一つの条件を提示していた。 「総理、国内全ての受刑者を対象にこれより人選を進めてまいります。凶悪犯であればあるほど都合がいい。しかしながら、その悪人たちを指揮する人間が必要となります」 「それならば、我が特殊部隊の――。いや、それはいかんっ。罪人の心を理解する者でなければ」  悪を束ねることの出来る知能犯、彩希の脳裏には一人の男しかいないと結論は出ていた。 「信頼できる心当たりの者が一名います。罪人特殊部隊のリーダーの適任は彼しかいません。私の指定する者をリーダーに」  彩希の問いかけに答えるタイミングで部屋の扉を叩く音が響いた。 「コンコンッ。失礼する」  姿を現したの防衛省トップである久我大臣、そして法務省トップの柳沼大臣。彩希の提案により総理が承諾した二人による極秘計画、その秘密を総理は既に二人の大臣へと告げていた。険しい瞳を向ける彼女に対し総理は深々と頭を下げた。 「すまない……。事前に君へ告げるべきであったが、当計画は彼らの力なくしては成し遂げられないと判断した」 「……」  彩希は何も答えない。 「私からもお詫びする。今回の陸軍駐屯地における銃器強奪を阻止できなかったことは全て私の責任、それ故に、是非協力させて頂きたい」  一秘書に対し深々と頭を下げる久我大臣。軍管轄の防衛省並びに刑務所管轄の法務省のトップである彼らの権力は共に避ける事の出来ない事実。彩希は総理の意向を全て理解したのか深く頷いた。 「総理と両大臣の意向は分かりました。私からの条件は、リーダーとなる者の任命です」  彩希がノートパソコンに映し出した画像、そこには一人の記者の姿。真島漣、官邸記者クラブにも出入りする記者です。 「記者? そんな男に犯罪者など危険すぎる」 「今回の反政府軍の計画の本筋を暴いたのは私ではなく、実は彼が――」 「……」  静まりかえる室内で総理は彼のこれまでの経歴を読み解くが、犯罪逮捕歴は記載されていない事実に疑問視する。  善良な市民に、犯罪者のリーダーなど――。
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