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「ミト、ミト、ごめんなさい、こんな真似をさせて…」
「姫、私の姫、どうか堪えてください、必ずや無事にお送りいたします」
「ミトー、ミトー。姫、姫ー。だって。やんなるね、こんなクソみたいなお涙頂戴は」
誰かが唾をミトの上に吐いた。若い女だったが、男達と同じ格好をして、剣を握っていた。ハオと言うのだと後から聞いた。
そうだ、私達は逃げられはしなかったのだ。
「アゼル早くこの女ヤッちゃいなよ。あたい、こんな女大っ嫌い!!襤褸切れになるまでヤラレチャエばいいんだ」
「まあ待てよ、焼餅を焼くのはよせ」
「焼餅なんて」
「いいやお前は嫉妬している。俺があのでくのぼうにそう感じているようにな」
「へえ、アゼルでもそういう気があるの」
「ああ、勿論だよ。こいつみたいに金持ちの家に生まれ、騎士団長にまで上り詰める力もあり、姫様に慕われてよ。俺だって孤児ではなく、まともな暮らしをしていればああなれた筈なのにと、思う気持ち位あるさ」
「ふうん」
「だから俺はあの男こそ襤褸切れにしてやりたい。生まれた事を後悔させてやりたいのさ。それまで姫さんにはなにもするな」
「へえ、面白そうじゃない。いいよ、カシラはあんただ」
アゼルは意気揚々と王女に命じた。そのでくのぼうの両手を縛れと。怯える王女はミトを見たが、ミトは頷くと、黙って両手を差し出した。
「きつく何重にも縛れよ」
「ミト…」
「言うとおりにしてください。私は大丈夫だ」
「出来たなら次はそいつの下半身を剥け。いいか、下着までずりおろすんだぜ」
「な、なんということを言うのです!そんな事が出来るわけが」
「姫!…申し訳ありませんが、言う通りにしていただけませんか」
「…っ、はい…」
そして山賊達が笑う中、ミトは無様な姿になった。王女を不自由な両手の合間に挟み込み、ただじっと耐えている。
アゼルがまるで死刑宣告のように告げた。
「お前は姫の純潔を守りたいんだろう?だがこちとら女に飢えた山賊が一杯なんだ。どうする、騎士団長様。あんたが代わりに相手をしてくれるか」
「な、なんですって」
姫が憤るのを、ミトは押しとどめた。悲痛な顔をしていたが、決意は固まっていたようだ。
私はアゼルに拾われたが、けして鞘を外しはしなかったので、ミトの近くに打ち捨てられていたからよくミトの顔が見えた。あんな顔は…思い出したくもない。
「…解りました、アゼル様。私が代わりをしよう」
「させてくださいだろう、でくのぼう!」
「させてください、アゼル様」
「いいよ、しょうがねえな」
「ただし、姫の耳を塞ぐのは私だ。そして彼女を私の元からどこへも行かせないでくれ」
「…いいよ。じっくり見てもらいな」
泣きじゃくる王女に、ミトは優しく囁いた。
姫、姫、私の可愛いお姫様。
どうか目をしっかり瞑っていてください。耳をしっかり塞いで。
その上を私の手が塞ぐから。いいですか、なにがあろうとも絶対に目を開けてはなりません、聞こえてもなりません。
私の姫、共に歌いましょう、「ある騎士が姫に捧げる歌」を。
そして、私だけが聞こえていたし、見えてもいた。
恐ろしい辱めだった。最初にアゼルがなにもしていないミトの穴に押し入った。
溜まらずに唇を噛んだミトだったが、耐え切れずに咆哮を上げた。
それでもけして姫の耳からは手を離そうとしなかった。
次に大男が割り入る。
そして何人もの男がミトをまるで案山子のように扱った。それでも男達はやめないばかりか、行列の後ろへと並ぶ。
皆が好色ばかりではない、被虐の色、憎しみの色、彼らはまるで何かの鬱憤を晴らそうとしているようだった。
日が暮れる頃、漸くミトは奉仕から解放されたが、酷い有様だった。
殴られ、罵倒され、噛まれ、まさしく襤褸切れだ。だがアゼルはまだ彼を解放しようとは考えていなかったのだ。
そのままアジトへと連れていかれた。あれだけ大勢の護衛や召使がいたというのに、生きている人間は盗賊以外どこにも見当たらなかった。
私たちは孤独であったのだ。
それから何日も、何日も、何日も同じことが繰り返された。
食事は一日に一回。
盗賊の相手を終えて、喋ることも歩くこともままならないミトが盗賊達に乱暴に担がれて帰ってくる。
口移しで王女が水を飲ませると、体を震わせてミトが頭を横に振って涙を流す。
「汚れている」
そう囁くのだ。だからちっとも汚くない、貴方は綺麗よ。そう言って姫はミトの体を手ずから拭いてやる。そして姫は小さな体で大きなミトをベッドに運んで寝かせてやる。
そして私と王女はただただ、「ある騎士が姫に捧げる歌」をハミングして聴かせた。
かつて王女が眠るまで、ミトがそうしていたように、私たちはミトが眠りにつくまで子守唄を聴かせた。束の間だけでも、安らかに眠れますようにと。
うん?なんだって、どうして剣の私が囚われのミト達と一緒に居られたか、だと?
それはな、私がアゼルに言ったのだ。「私のダイアモンドを抜いて売るのは簡単だし、鋼を溶かして他の剣を作るのも易しいだろう。しかし魔剣を持てる男はそうそうはいないぞ。ミトは…ミトはきっとあのままではいくらもしないうちに死んでしまうに違いない。それまではあの者のそばにいさせてくれないか。そうすればお前は世界で一つの私の主になれるのだ」そう告げたのさ。アゼルは了承し、私の鞘と柄は鎖で封をされてしまったが、構わない。姫とミトのそばにいれるのなら。
…例え本当にミトが死んでしまったら私はアゼルのものになってもいいと思っていた。
もうミト以外に我が主と呼べる者などこの世には存在しないのだから。
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