世界の終わりの第一歩

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 朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。 「あと七日かあ」  独りごちて、僕は顔を洗いに洗面台へ向かった。この世界にいられるのも、あと七日だ。  僕らにとって世界とはデジタルデータだ。  脳内に埋め込まれた生体端末からサーバーに接続し、デジタル空間に構築された様々な仮想世界を体感しながら生きている。サーバーによって世界のシチュエーションは違っていて、ファンタジーな世界もあれば時代劇のような世界、ここみたいな過去の時間を再現した世界もある。  同じ世界に長く居続ける者もいれば、複数の世界を転々とする者もいる。  だけど、あまり長く世界を維持するのも難しいらしく、メンテナンスの為に時々世界はリセットされる。  世界の終わりなんて仰々しい言い方をされているけれど、要するに世界というサービスの終了に過ぎない。個人データや資産のバックアップという準備が少し手間取る、その程度のものだ。データが失われてしまわないように、こうやってニュースで注意を促しているんだ。  ここは20世紀末〜21世紀初頭の日本を模した世界で、結構気に入っていたんだけど、終わるんなら仕方ない。何日かかけて、別のサーバーの別世界にデータを移している最中だ。  どうせしばらくしたら、同じような世界が再構築される。再構築されたら、またそこに移って来ればいい。
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