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「違うって? どういうことだ?」
「ウィルスをまかれたって噂だ」
ここで言うウィルスは、もちろんコンピュータウィルスだ。感染すればデータを破壊されるし、生体端末に入れば不具合を起こす。
「現実主義者の仕業だって話だ。だから人間が感染すれば、強制的にサーバーとの接続を切られる」
現実主義者というのは、「人間は仮想世界を離れ、現実の世界を生きるべきだ」と主張する連中のことだ。今のこの状況を「AIに支配されている」と捉え、「人間を支配から開放する」と称してテロを行っている。
正直迷惑だ。少なくとも僕はこの生活に満足しているし、誰も開放してくれなんて言ってない。古いSF映画の見すぎなんじゃないのか。
「感染して、世界から切り離される人が増えてるらしいんだ。政府はワクチンプログラムを開発させてるようだが、間に合ってないらしい。だから、このサーバー内の世界を早々に終わらせて、まだウィルスにかかってない人を別な世界に移そうとしているんだそうだ」
「この世界から切り離して現実とやらに戻したところで、どうなるっていうんだろうね。今や現実だって、たくさんの世界のうちの一つに過ぎないだろ。現実に戻ったからって、素晴らしい人生が開かれるってわけでもないし。現実に夢見すぎじゃないのかな」
現実がそんなにいいんだろうか。現実がそんな素晴らしいものなら、誰も仮想世界に留まらないんじゃないだろうか。
「一番厄介なのが、あいつらは自分が『正しい』と思ってることだ。自分のことを正しいと思ってる者は、それを根拠に何だってやる」
ケントの言葉に、僕はうなずいた。
「正しければ、何やってもいいってわけじゃないよな」
その時。
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