世界の終わりの第一歩

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 目覚めると、そこは白い部屋だった。  殺風景な白い壁の裏側には、一面に収納スペースが設けられている。その中に、ぽつんと椅子とテーブル、ベッド、道代わりのウォーキングマシンが置かれている。部屋の隅には、唯一の外へつながるドアがある。  ここは国民一人一人に割り当てられた居住スペースだ。僕らはここに住み、ここで生き、ここで仕事をして、ここで食事をする。外に出ることはほとんどない。  強力なウィルスによるパンデミックが長らく続き、国民の多くが死に絶えた時、AIによる政治機構は国民一人一人を隔離することにした。その為の部屋がここだ。  外に出られないストレスを軽減する為に考え出されたのが、仮想世界だ。そこでは外の景色があり、人との出合いや会話があり、友情も恋もあった。昔より人が少ない為、AIが擬似人格を作って住人の水増しをしてはいたけど、誰も気にしていなかった。  ふと壁を見ると、そこに取り付けられているモニターに自分の顔が写っていた。鏡面モードにしていたようだ。  ……僕はこんな顔をしていたろうか。ずっとアバターの自分しか見ていなかったから、素の自分の顔に違和感を感じる。いや、視覚も、聴覚も、触覚も、何となくひどく薄っぺらな感じがする。今何か食べても、そんなに味はしないのじゃないだろうか。幸いと言うべきか、空腹は感じなかった。  生体端末を呼び出してみたが、全くの無反応だった。ウィルスに完全にやられてしまったようだ。交換の手続きをしないといけない。外科的な交換の手間はそれほどかからないが、アカウントの復活やアバターの作り直しもしなければいけないし、仮想世界内のデータのサルベージだってやらないと。  とりあえず出来る手続きをしようと、部屋に備え付けてある端末からネットに接続する。生体端末を使っている時程には直感的な操作が出来ないので、ひどく面倒に感じた。
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