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3話 異世界
「起きて、ロック。貴方の番よ。」
女の子の声だ。僕は目覚める。
「いつまでもお寝坊さんね。ロック•ブルーザーは。」
声の正体は獣の女の子だった。茶兎のようなもふもふの耳に、ウサギ特有の鼻、唇。まるでffの実写版みたいだ。
「ここは!?」
僕は叫ぶ。
「なあに寝ぼけてるの?ロックが飲みたいって言うからここに来たんじゃない。」
「俺が?ここに?君は?」と僕は尋ねた。
「え!?私の名前も忘れちゃったの?嘘でしょーもう。ヒール•クラインよ!」
「ヒール!?状況が全く読み込めないんだけど、ちょっと、ちょっと・・・・いいかな?」
僕はマジで今どういう状況なのか、頭をフル回転させていた。さっきまで、仕事が終わって帰っている最中にそう、
僕は大男に頭を割られて、魔法を使われたのだ。全く状況が把握できない。今いる場所も理解できないし、目の前にいる女?なのか獣のようなのがいて。えーと、ダメだ。全然整理できなかった。
でもなんか直感でここが元いた世界ではないことは実感できた。それだけは理解できた。だとしたら、まずは過去の大男の話は置いておいて、現状の今置かれている状況の整理が先だと思った。
「何をそんなに焦ってるのもう。ほらお水でも飲んですこし落ち着いて。」
そう言ってヒールは自分の飲んでいるお水を僕に渡してきた。僕はそのまま受け取り、飲み干した。
ありがたい。凄く喉が乾いていたし、落ち着くには最適だ。
深呼吸して落ち着いたので、辺りを見渡した。そこは酒場だった。ゲームや映画で観るような西洋の酒場だ。
獣のような見た目をした人間のような者達がそこにはいた。一目でわかることだが、どいつもこいつも品がない。
大袈裟に笑い、口からは食べ物がこぼれ落ち、床はビールまみれであった。
「ちょっと、状況を整理させて欲しい。まずはそう、この場所ここはどこ?」
「グリーンウッドの酒場じゃない。ほら、あそこに見える。マスター。あの人のお店よ。」
ヒールはそう言って人差し指で指さした。僕は思わず、ヒールの指をまじまじと見つめてしまった。
そもそも、獣人というのは指の先まで毛深いんじゃないかとよくゲームをやっている時、疑問に思ったからだ。
しかし、彼女の指は僕の想像とは裏腹に、綺麗なしなやかな形をしており、毛深さなど微塵もなかった。
ただ、一つ変わった所があるとしたら爪の形が特殊だった。その爪はスペードのような形をしていたのだ。
「ねえ、違うでしょ。見るのは私の爪じゃない!マスターよ。」
「変わった爪の形をしている。」
と僕が言うと彼女は照れ臭そうに笑った。
「恥ずかしいからあんまり見ないで!もう。それより、ほら頭の整理をするんでしょ!」
僕はそうだねと言ってマスターの方を見た。見覚えのない男だ。というよりあれは男のなのだろうか?
性別が分からない。見た目は蛇のような顔をしており、赤い眼球がまるで獲物でも狙っているかのようにキョロキョロ動いている。鱗は青銅色で艶があった。髪は一つもなく、ピンクのイヤリングのようなものを耳に付けていた。
「あれがマスター?見覚えないな。ちなみに男だよね?」
「ロック正気?殺されるわよ。」
とヒールはまじかこいつみたいな目で見てきた。
こっちも情報整理できてないんだから勘弁してくれよと僕は心の中で悪態を付いていた。
「そうか、僕はあのマスターのグリーンウッドの店にいるんだな、おけ。
よし、次だ。ごめん、君は誰?」
「ねえ、それって失礼すぎない?」
ヒーラはマジで怒っている感じで言ってきた。
僕は焦って慌ててフォローする。
「ごめん、本当に分からないんだ。どっかで頭打ったのかな?えへへ。」
「貴方が誘ったのよ。私と飲みたいっていうから。ちなみにどこで私を誘ったかは?」
「覚えてない。。」
彼女は呆れたかのようにため息をつくと、教えてくれた。
「私の会社よ。貴方が家を借りたいっていうから、私の店に来てその時担当だった私を誘ったのよ。
「君の爪はとても魅力的だ。最高にチャーミングで素敵!一度じっくり見してくれ。」ってね。」
「臭い誘い方だ。まるで洋画だ。」
「私はそう思わないけど。」
「まあ、いいわ。人って色々あるもの。深くは詮索しない。それより、私少しトイレに行ってくるわね。」
1人残された僕は暫く彼女の話を整理していた。しかし、思い返してもここがグリーンウッドの酒場で、僕がヒーラをデートに誘って飲んでいたことぐらいしか聞けていなかった。
帰ってきたら、まずはここがどういう世界なのか聞こう。
考えごとをしていたら、無性にビールが飲みたくなった。脳みそがアルコールを求めていた。
もう考えたくないって言ってるかのように。
テーブルの上にはグラスが3つ置いてあった。一つは僕のものらしく中身は空だった。
もう二つは多分ヒーラの物だった。
そうしてその中の一つは先ほど、ヒーラが僕にくれた水だった。
最後に残ったグラスには多分ビールのような泡立ちをした液体が入っていた。
僕は無性にそれが飲みたくなって、一つくらい飲んでもバレないだろうと思って彼女のグラスを手繰り寄せた。
鼻先に近づけて匂いを嗅いでみる。甘い匂いとアルコールの匂いがした。飲みたい!と脳が叫んだ。
僕はそっと口に近づけたその時、頭の中で音声がした。
「パスワードを入れてください。」
確かにそう聞こえた。何だかどこかで聞いた事がある声だなと思った。僕は辺りをキョロキョロと見渡すと、
僕の目の前に文字が表示されいた。それはゲームで出てくるような日本語のテキスト形式で表示されていた。
「な、なんだ。これ。」
思わず僕は声に出す。そのテキスト文に触れると4つの✳︎が表示された。僕は試しに思いつく数字を入れてみた。
どうやら間違っていたらしく、警告文が赤く表示され、警告音が鳴り響く。
「パスワードが違います。 正しいパスワードを入力してください。」
「はあ?パスワード?」
僕は思わずまた叫ぶ。どうしてもこのビールが飲みたくて仕方がなかった。
飲みたいという欲望はどんどん膨れ上がっていき、破裂しそうになっていく。
だめだ、飲みたい。どうしても飲みたい。もうだめだ。
そう思って僕がグラスに口をつけようとした瞬間、後頭部に冷たい何かが接触した。
「やめときな。それを飲んだらあんたは終わりだよ。」
僕が声の方に視線を移すとそこには、グリーンウッドが僕の後頭部に銃身を突きつけながら立っていたのだった。
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