星空だけの街

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「なぁ、覚えてるか? このビルの最上階で、必ずこの街を守ると誓ったこと」  カズマは茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしてそう言った。 もちろん、覚えてる。  倒壊した高層ビルが、僕らの行く手を(はば)んでいた。 このビルは街の象徴だった。 「迂回(うかい)しよう」  カズマの声に僕は頷く。 彼は足元に転がるダンボールを蹴飛ばして、細く汚れた路地に入って行った。  歩く度、散らばった硝子(がらす)の破片や瓦礫(がれき)が、ジャリジャリと不快な音を立てた。  僕らは一体、何のために戦っていたのだろう。  崩れた民家も、腐臭を漂わす生温(なまぬる)い風も、全て僕らを批難するためにそこにあるように思えた。  カズマと僕は、この街の片隅にある孤児院で育った。 僕らの半分は、そこでの思い出に作られたと言っても過言ではない。  孤児院には、戦争が無かった。  人が人を殺すなんてことは、物語の中だけの話だった。 どれだけ喧嘩をしても、どれだけ相手を恨んでも、「殺そう」なんて考えは一度も浮かんでこなかった。  だって僕らは、仲直りの方法を知っていたから。 「こんなのっておかしいよね」  僕は堪らずカズマの背に呟いた。 聞こえていたはずだけれど、彼は何も言わなかった。  住宅街を抜けて、さらにしばらく歩くと、懐かしい馴染みの公園が見えた。  特にこれといった特徴のない小さな公園だけれど、孤児院の子供達にとっては大事な遊び場だった。
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