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星を一つ手に入れた
嬉しがりやの男が一人
きんきらきんの金の星
だけど男は浮かぬ顔
手の中の金の星
段々弱って銀の星
お空に帰してやろうかな
そうは思うがいやいや待てよ
やっぱりこれは俺のもの!
【星を捕まえた男】【ぎんぼし】
「ま、拐っちまったもんはしゃあねえわな」
あっちには上手く伝えておくから。そう言いながら競馬新聞を読む近藤に鈴木は深々と頭を下げた。近藤は白いスーツに太った体を包んでいる。揉み上げの長いリーゼント。今では手に入れるのも難しい紫の色眼鏡。
事務所で鈴木は自分の愚行を兄貴分にばらした。刑事を一人、拐っちまいましたと。
そして返ってきた答えが先程の近藤の言葉であった。
近藤や鈴木が属している組織はなにかと警察に目こぼしをしてもらっている。
ギブアンドテイク、もちつもたれつ。
だからしでかしたと鈴木が思った割には近藤はなんとも思っていないようだった。
鈴木が三度礼を言って近藤の部屋をでようとドアノブを握った時、なんで、と声が聞こえた。
振り替えると近藤が煙草をくわえながらジッ、とこちらを見ている。
「なあ鈴木ちゃんよ。お前さんは血の気が多い奴だけど、馬鹿な事はしねえと思ってたんだ俺は。別に責めやしねえよ、刑事の一人や二人いたっていなくたって構わねえだろう。だけど少し、気になるな。バラしちゃったの?腹が立ってか、まずい所見られてなのか」
「いえ…」
「じゃあなんだよ」
「惚れまして」
「…へ?」
「今は近藤さんが使っていいって言ったボロいラブホに閉じ込めてます」
「なんだよ鈴木ちゃんそっちの趣味?」
「そうじゃないんですけど」
「でもヤッちゃったんだろ」
「ヤってます。自分は色事に淡白だと思ってましたけど毎日顔を合わせたらヤッてます。嫌がる顔も、いいし…」
「変態だねえ、やめてくれよ俺を襲うのは」
「はは、大丈夫ですよ。でも近藤さん」
「うん?」
「最近そいつの元気がないんですよ。最初は泣いて喚いて、家に帰してくれと胸をかきむしって懇願していたのに、今はなんにもないんです。抱いてもマグロだし…」
「そりゃあ無理やりだもんな。相手にとっちゃ愛じゃねえよ」
そう近藤が助言すると、鈴木は苦い顔をした。
「近藤さん。俺は人を愛せないんかな。よく解らないんだ。誰も教えてくれないし」
そこで近藤は苦笑した。
「馬ー鹿、愛し方なんか誰も教えてもらってねえよ」
そして、頑張れとは決して言わなかった。
【ぎんぼし】
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