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時には天邪鬼な男もいた。何の気持ちもあなたにはない、と言いながら一週間に一度二度訪れて、男で可愛いなんて、ましておじさんのあなたが可愛いと言われて良い気になっていますがそれは大いなる誤解ですよ。あなたなんか皆の笑われ者ですよ。だから他の奴に笑いかけてはいけません。気持ちが悪いですからね。とこんこんと説教を垂れるエリートサラリーマンの男。
それなのに熱に浮かされた眼をして大山田から視線を外そうとしないから笑いをこらえるのに必死だった。こういう男もまた可愛いと大山田は思った。
だからある日、二人きりで手料理をふるまうからと言って夜の八時に自分の部屋を訪れるようにと言うと、天邪鬼な男は厭そうな顔をしてこう言った。
「僕は美食家ですからね。貴方がそうやって軽々しく手料理をふるまうと言って他の人がまずい料理を食べさせられてはかないませんから、僕がジャッジしてあげましょう」
そう言って八時前には家を訪れた男には、裸エプロンで迎えてやった。悪戯そうな顔で唖然とした男の腕を捕まえて部屋に誘い入れる。
「君は美食家だって言ったから……。私が用意できる材料で一番美味しい物を用意してみたんだ。それはね……やっぱり私……かな?さあどうぞ、召・し・あ・が・れ!」
「あなたって人は……!可愛いにも程がある……!いただきます!」
そう言ってベッドに押し倒した男は前戯だけで二時間。本番にいたっては一晩中ねちっこく責めたてたばかりか、朝ご飯を作ろうとベッドから出ようとする大山田にエプロンをつけさせて、台所に立たせると、後ろからいやらしく乳首をつまんでみたり、お尻の穴に指を挿入してみたりしながらねちっこく大山田をいじめて喜んだ。
「ほら、ちゃんと料理を作って下さいよ。そんなに喘いでいては包丁も使えないじゃないですか」
「あん、いやだ……君がいやらしいことをするからあ……大人しくまっていてよ……」
「どうして?ここで一番おいしい物を食べているだけですよ……」
そう言って立ちバックで挿入される若い男の性器に、大山田は可憐に喘ぎ、ますます男を情熱的に煽るのであった。
自分と同じく可愛い男もいい。まるで女同士のようにはしゃぎながらも肉棒を擦りつけ合って、挿入したり、挿入されたり。チュッ、チュッ、と小鳥たちのキスを繰り返しながら甘い恋をしてみたり、辛い事があって人間不信に陥った若者とプラトニックな関係を築いてみたり。危険な男も、高飛車な男も、自信をなくした男、平凡な男、すべてを摘み取る。
花が、集まる。
カスミソウに、マーガレット。大輪の赤い薔薇に大きな白百合。時には花ですらない供え物のような草木のような男も構わず大山田は愛した。
口づけは、みな同等の愛と慈しみを持って行った。
手に抱えきれないほどの花束が、可愛い大山田を彩った。
今、大山田は母の言いつけ通り皆を幸せにして、自分も幸せに生きている。
「ねえ、ケンちゃん」
大山田が小首をかしげて青年に問いかける。50歳になった今でも大山田の可愛さは健在だ。
70になった母も今でもモテモテである。まだ、いけると思っている。
「なあに、ハルさん」
「私って……まだ可愛い?」
「当たり前じゃないですか!あなたはいつでも、可愛いですよ」
「ありがとう!だあいすき!」
若者が微笑む。
大山田も微笑む。
可愛いパリ風の喫茶店。ここにも美しい花がある。カフェの店員が自分にくぎ付けだ。なかなかイケメンである。そして、大山田は若者に微笑んでいるように見せて、店員に秘密の微笑みを見せている。
ちょっとお手洗い。と言って席を立つ。途中で店員の手にそっ、と触れる。店員と視線が交わる。
すると大山田はぺろ、と舌を出して悪戯気にウィンクしてからトイレに向かう。
トイレには大きな鏡があった。鏡に映るのは50歳になった大山田だ。可憐な姿ではない。若々しくもない。でも。なにかがあった。
じっ、と自分を見つめてみる。
そして、にっこり微笑んだ。それはトイレの入り口の扉が開いたからである。
鏡越しに大山田は熱に浮かされたような瞳の店員と見つめ合った。
「お客様……、僕……あなたに見つめられて我慢できなくなったんです……」
手が、伸びてくる。男の手が大山田を掻き抱く。
ああ、と大山田は思った。
私は、まだ、可愛い。
【♡♡♡私はラブリー♡♡♡】完
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