♡♡♡私はラブリー♡♡♡

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女は勝手なものだ、と大山田は憤慨した。 (私はこんなに可愛いのに、どうして愛してくれないんだろう。一生懸命愛されようとしているのに……) 私を愛せば薔薇色になれるはずなのに……。と若かりし大山田は美しくも可愛い顔を歪ませて悲しんだ。女なんて、嫌いだ。人間なんて嫌いだ。と思っていた時である。 「悲しまないで、君は、可愛い」 「あなたは可愛い」 「おお、なんということだ、お前ほど可愛い生き物なんて、この世に存在したことなんて、ないさ!」 そう囁いてくる声が、した。 振り向けば、男達がいた。 沢山の男達が頬を染めて熱い視線を大山田に送っていたのである。その当時の大山田は女性に愛されようと努力していたので気が付かなかったが、小学五年のあの日から世の男性共は、すわ天使降臨、はたまた小悪魔召喚か。と言うほどに大山田の姿は目立っていた。 男の姿だが。 可愛い。 めちゃくちゃ可愛い。くしゃ、と可愛い顔を歪ませて笑う姿も、頼りなげに誰かに助けを求める姿も、濡れたような瞳で上目遣いなんかされるとえもいわれぬ気分になるのである。ああ、可愛い。男達は女という人種に嫌気がさした大山田に恭しく手を差し伸べたのである。 大山田は。 覚醒した。 ああ、お母さん。と思った。 「ねえ、晴臣さん。これは天からの授かりものなの……。私達はとっても可愛いわ。だから、忘れてはいけないわ。私達はね、みんなを幸せにしなくてはならないの。私達がお願い事をしてあげたり、困った顔をして誰かを頼りにするっていう事はね、みんなが幸せになれる事なのよ。だから晴臣さん。あなたも沢山人を幸せにしてあげなさい」 そう言って微笑む母の顔がちらつく。 ちなみに母は貧乏な父ととっとと別れてお金持ちの男性と三回ほど離婚と結婚を繰り返し優雅に過ごしつつ、70歳になった今でも老人ホームで余生をモテモテで過ごしているのでまだ本物の天使にはなっていない。 かくして大山田は男達から愛される男になったのであった。 仕事はもちろんしていない。なぜなら大山田の仕事は愛されることだからである。どこぞのお金持ちに買ってもらったマンションに住み、どこぞの富豪に与えられた車に乗る。 それでいいのか、男として。それでいいのである。大山田は可愛いのだから。 中年になるにつれて、大山田は不安に思う事が増えた。可愛い、と言っても三十、四十と過ぎてくると男達に飽きられるのではないか、という事ばかりを考えるようになった。体の衰えもある。 なにしろ、大山田は可愛い、しかもっていないのだ。手に職はない。母の様に結婚という手段もない。 通り過ぎていく男達は可愛い、可愛い、としか言ってはくれない。ああ、つまらない。将来の不安も相まってよく公園のベンチでぼんやりとすることが増えた時である。 「あの……隣に座ってもいいですか?」 か細い声に顔を上げれば、まだ二十歳くらいの青年がはにかみながら立っていた。 「勿論だとも、お座りなさい」 「ありがとうございます。あの……、よくこの公園に来られますよね?僕、家が近くにあるのでよく見かけていたんですよ」 「ふうん……そうなのかい」 大山田はぼんやりと相槌をうっていた。青年に見向きもせず、これからの事を考えていたのである。もじもじ、としている青年の動作に気が付かなかったが、「あのう」という言葉と共にそっ、と太ももに手が置かれて初めて青年の顔をまじまじと見た。青年は恋をしていた。もちろん青年の瞳の中には大山田だけが映っている。愛されることに慣れていた大山田は少し、新鮮味を覚えた。初々しい眼差しは久方なかったのである。まるで女王の様に金持ちや身分の高い男達にちやほやされているだけであった大山田は、なにも財産は持っていなくとも、愛だけは確かな青年のまなざしに心打たれたのである。 「あなたは……年上の人に言うのは本当は駄目なのかもしれない……、でも、言わせてください。貴方は、可愛い。可愛くて、可愛くて、好きなんです。ずっと、好きだったんです」 そう言う青年こそ可愛かった。 きゅん、とした。 大山田は生まれて初めて母以外の物に可愛い、と感じたのである。
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