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深淵の瞳
「あっ…失礼しました…お風呂…まだお使いだったのですね…
作戦によっては当日中に帰れないこともありますから…女王様のご厚意で私も…これからエルドラへ向かう前に身だしなみを整えておこうと思いまして…」
ゲッ!!!アリスさんだ…!!!!!
どどど…どうしよう…
「構わへんで…ウチらはもう上がるさかい…」
「うん…純くんももう上がるらしいよ…
そうだよね…純くん…!!!」
…えっ…⁉︎
その瞬間…アリスさんが僕の存在に気づいて…
目と目がバッチリ合ってしまった…
「キャアァァァァァァァァ…!!!
なんでここにあなたが…!!!」
「ち、違うんです…聞いてください!!!
これには訳があって…!!!」
「もう!!!早く出て行ってください!!!
ここは女湯ですよ…!!!」
アリスさんは前を手で隠しながら手桶を放り投げた…
手桶は凄い勢いで僕の顔面にヒットする…
グハッッッッッッッ!!!!!
ザバァァァァァァン!!!!!
「…し、失礼しました…!!!!
私…どうやってお詫びしたらいいやら…⁉︎」
部屋のベッドに横たわった僕の顔面に…
アリスさんが治癒魔法をかけてくれている。
「事情はお二人から伺いました…ハァ…」
彼女は落ち込んでため息をついている…
「アハハハ…じゅ、純…
こうなるとは思わへんだんや…
ゴメンやで…!!!」
「純くん…痛そう…大丈夫⁉︎
もしも…出発が無理なら、もう一日ゆっくりと…」
「だ、大丈夫だよ…それに…
アリスさん…女王様はミカちゃんの事…
僕達が三人いる事を知っておられたのですね…
だから、さっき…あなたとお話をした時…
『お連れの方々は…』
と言われたのですね…
ずっと違和感を感じていたのですが…
スッキリしました…」
アリスさんはちょっとビックリしたような表情で…
「なるほど…流石は女王様がエルドラ王国へ向かわせるだけのお方ですね…
実は…私も女王様もあなた方と謁見の間で最初にお目にかかった時、三人分の気配を感じていたのです…
しかし…あなたの説明を聞かれた女王様は「おとぼけ」になられたそうですね…
後から女王様に伺いました…
「女王様…どうしてですか…?
あの方々はもう一人、どなたかを匿っておられます…
何故…彼らを問い詰めないのですか…⁉︎」
「アリス…あの者達は大丈夫じゃ…
きっと事情があって隠しておるのじゃろう。
知らぬふりをして…
もてなしてやってはくれぬか…」
「ですが…どこの馬の骨かも分からない者に…」
「アリス…あの若者は深淵の瞳を持っておる…」
「深淵の…瞳…ですか…」
「そうじゃ…
他人に嘘をついて騙し、己の私腹を肥やそうと企む者の目をそなたは見た事があるかのう…⁉︎」
「いいえ…女王様…謹んで申し上げます…
そんな不貞の輩は私の周りには居りませぬ…」
「そうか…アリスよ…
悲しい事だが、私は今までにそのような目を幾度となく見てきたのじゃ…
ドロドロに濁り、血走り…
未来どころか明日さえも見据える事が出来ないような悲しい目を…」
「…女王様…」
「…わらわは久しぶりに見たのじゃ…
澄み切ってはいるが、何処までも深く底の見えないような瞳を…
あの時以来か…⁉︎
あの終末の日…」
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