世界樹

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世界樹

「純…!!!」 女王様は甲冑の姿からいつものドレス姿に戻られた… 「女王様…ミカは…ミカは…大丈夫でしょうか…⁉︎ 彼女の力に甘んじて戦闘に巻き込んでしまった僕の… 僕の責任です…うううう…」 ミカのカプセルを抱いて涙を流す純を見たアンジェ女王は 遠い昔の光景を思い出す… 「純よ… カプセルを持ってわらわに付いて参るのじゃ…!!!」 僕は理由も分からず、女王様の向かう先へと駆け出した… 「わらわの考えに間違いが無ければ…」 王宮の南に固く閉ざされたドア… そこに付けられている大きな魔法錠の前で女王様は呪文を唱えられた…すると錠が… …ガチャン… という大きな音を立てて外れた… 「こっちじゃ…」 中に入るとそこは魔法結界で守られた泉の部屋だった。部屋の真ん中に光輝く若木が生えている。 背丈は僕よりも少し大きな位だが…幹の太さに似合わない太く立派な根を生やし、その根は泉から大地の恵みをたっぷりと取り入れて… その部屋に入った者はまるで回復魔法をかけられたように力が溢れ出すのを感じた。 女王様はミカのカプセルを両手でそっと泉に浸された。 すると緑色のカプセルはぼんやりとした(オーラ)につつまれた… 女王様は「これで大丈夫じゃ…」と呟かれた。 「女王様…この若木は一体…⁉︎」 「うむ…これは…この木は世界樹(ユグドラシル)の若木なのじゃ。」 「世界樹(ユグドラシル)…!!!」 その時…ミカに似た声が頭の中に響いた… …ウフフッ…レック…あなたって本当に… そして以前にも見た… あの大木の下から上を見上げるとオレンジ色の木漏れ日が降り注いでくる光景が再び僕の頭の中に映ってきた… …なんか…懐かしいような景色だ… 「世界樹は…この世界の生きとし生けるもの全てに生命をあたえる樹…星の意思が姿となって現れた樹とも言われておるのじゃ…!!!」 女王様は僕を見つめてゆっくり口を開いた。 「純…そなたに二人きりで話がある。聞いてくれぬか…⁉︎」 女王様は人払いをして…僕を自分のプライベート・ルームに入れて下さった。そして…ご自身でお茶まで入れて下さっておられる… 一国の首長の方にこんなもてなしを受けるのは人生でそう何度もないだろう。 高級そうな調度品の数々に僕は圧倒されながら、どこまでも沈んでしまいそうなソファーに座り…カチコチに緊張している僕を見て女王様は何度も笑われた… 「純…そう緊張せずともよい。そなたとわらわははるか昔…生まれてくる以前は…それほど知らない仲でもなかったのじゃからな…」 「ええっ…ぼ…僕と女王様がですか…⁉︎ ま、まさかお付き合いしてた…とかじゃないですよね… だったら身分もわきまえずにすみません… 大変失礼致しました…!!!」 女王様は声高に笑われて 「残念ながらそうではないぞ…純に謝られることはない。 本当にそなたは素直じゃな。」 恥はかいたが場は和んだようで僕は嬉しかった。 「さて…」女王様は表情を変えられた。 「どこから話そうかのう… 純…そなたは何故…自分がこの世界に来たと思うておるのじゃな…⁉︎」 「そうですね…幼い頃に川遊びをしていて丸い石と音叉を拾いました。 最近になって、偶然音叉が鳴り響き丸い石が割れました。出てきたカプセルを開けるとミカが出てきました。」 「ほう…ミカ殿がのう…」 「ミカのカプセルからこちらの世界に来られるようになって、女王様やみんなとの出会いがありました。 全ては幼い日の出来事からの始まりですね。」 「そなたは…何故…ミカ殿と出逢ったのじゃろうな…⁉︎」 「いいえ…それは分かりません…偶然ですかね…⁉︎」 僕がそう言うと…女王様は少し目を細められて… 「違うな…純。これは運命なのじゃ。」 「運命…ですか?」 女王様はじっと僕を見つめられている… 「純よ…わらわを〝ヴェラ〟と呼んでみよ。」 「えっ…⁉︎ヴェ…ヴェラ…さん…ですか…⁉︎」 「違う…!!!呼び捨てで構わん… わらわをそなたの恋人だと思うて… ヴェラと呼ぶのじゃ…!!!」 「は、はいっ…!!!…ヴェラ…」 僕は言われた通りに女王様を〝ヴェラ〟と呼ばせて頂いた。 …ポタッ…ポタッ… 僕の膝の上に一粒…二粒と水滴が落ちてくる… …気がつくと… 僕は自分の目から熱いものが流れているのを感じていた… あれ…どうして涙が止まらないんだ…⁉︎ 「そなたは忘れておるかもしれんが… たとえ転生したとしても…そなたの〝魂〟は覚えておるのじゃ… 自分の心から愛した(ひと)のことをな……」
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