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北を目指して
希望と不安を抱きつつ、僕達が飛び出したドアの外の世界は想像していた童話のような、RPGのような仮想世界とは全く違っていた…
映画で見たような昔のカリフォルニアやマンチェスターの片田舎のような感じの街並みでちょっと拍子抜けした。
僕が感じた現実世界と一番違う所は…
全く自動車は走っていない。
その代わり…馬車が走っているので道は舗装されておらず、そこかしこにゴロゴロと石ころが落ちていたり…汚い話だが馬糞が道端に落ちており、僕達の世界も昔はこういう感じだったのだろうと安易に想像出来た…
僕の勝手な予想だが、魔法使いや守護神がいる世の中で科学が発達することの必要性がない事の結果がこのような街並みなのだろうと。
つくづく『必要は発明の母』とは名言であるという事を思い知らされる…
ただ、この国…グランアンジェはとても穏やかな国であることは間違いないと思えた。
それは僕達の世界と同じ…
夏の足音が少し聞こえてくる春の柔らかな日差しの中を歩くと目の前には田園風景が広がる…
沢山の人が農業に従事している。
こんな穏やかな国の…それも片田舎でなぜクレアさんは男達に連れて行かれたのだろう?
僕は偶然、道端にいた農家のおばさんに旅行者と名乗ってこの国のことを聞き出してみた。
グランアンジェは王宮がここから北にあり、この国にはとても素晴らしい軍隊があるのだが、最近、隣のエルドラ王国と政治的理由で仲が悪く、いずれ戦争になるのでは?との噂もあるらしい。
この近くで魔法使いの女性が拐われたという話題は特に出なかった…みんなは知らないようだ。
僕はおばさんにお礼を言うと、グランアンジェ王宮がある北の方角に歩き始めた…
何故、王宮を目指すのか…それには訳があった…
僕がクレアさんと初めて出会った時…
『まさか、あんたエルドラの人かい?そういえば黒い髪だし。私は争いごとはゴメンだよ…』
彼女は確かにそう言った。
その話をさっきのおばさんから聞いた話に照らし合わせると、この国…グランアンジェはエルドラ王国という国との関係がよろしく無い…
戦争になった時、科学力の無いこの世界では魔法が強大な武器となるだろう…
だから魔法使いを拐って行ったのだとしたら…
浅はかな推理かもしれないが一応、辻褄は合う…
ならばエルドラ王国と直接繋がりがあるグランアンジェ王宮か…その城下町あたりで何か情報がつかめる可能性が高い!!!
ミカちゃんは王宮には行ったことが無いというので、カプセルの中に入ってもらって…
とにかく僕は歩いた。北を目指して一本道を…
坂道や山道はなく、平坦な道を二時間ほど歩いただろうか。道の先に大きな建物らしい物が見えてきた。
僕はミカちゃんをカプセルから出してあげた。
ポンッと煙の中からミカがあらわれる。
「ちょっと休憩してクッキー食べようか?」
「うん。食べる食べる!!!」
道から少し外れた芝生の上に腰を下ろす…
ミカちゃんは喜んでクッキーを頬張った。
その時…僕等のすぐ横を黒い馬に乗った同い年くらいの黒髪の青年がすごい速さで王宮の方角へ走り去った。
「あの人も王宮か城下町に行くのかなあ…」
僕達はしばらく休憩した後、またミカちゃんをカプセルに入れて歩き出した…
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