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「ねぇ、覚えてる?」
それが、僕が聞いた君の、初めての言葉だった。
何を?とか、人違いじゃないですか?とか、疑問の言葉はたくさん浮かぶのに。
涙に縁取られ輝く彼女の薄茶色の瞳を見ると、言いようのない寂寥感と懐かしい気持ちが込み上げてきて、喉を塞いでしまう。
自分でもこの気持ちが何なのか分からない。
けどきっと、大切なもののはずだ。
目の前の彼女のことは覚えていない。
そもそも初対面だ。覚えるべき記憶がないのだから、知らないことはごく自然なことである。
なのに。
知らないはずなのに。
彼女が現れた瞬間からずっと胸が苦しくて、堪えようのない気持ちが溢れてきて、どうしようもないほどに魂が震える。
「……ッ、君は、誰なんだ?」
頬を伝う涙にも気付かず、絞り出すように落とした問い。
彼女は一瞬だけ寂しげに形のいい眉を寄せ、しかしすぐに弾けるような笑みを浮かべて紡いだ。
「あたしの名前はしいな!大森晴翔くん、君の大好きでかわいい、大好きな彼女のしいなですともっ」
これが彼女、しいなとの一生忘れられない出会いだった。
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