夢現に揺蕩いて

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「まー、あったよ。ちょっと相談したくて」 「へー!珍しいな、晴翔が相談なんて」 「……なんで嬉しそうなの」  なぜかテンションの上がった樹は置いといて、昨日の出来事を思い出す。  そして、高校二年から三年半の時を過ごした友人に問いかけた。 「あのさ、僕って彼女いたっけ?」 「は?」  うわ、見たことない顔してる。叩いていいかなこれ。 「え、なに?記憶喪失の相談?ちなみに晴翔に彼女はいたことないけど?可哀想なくらいいたことな……へぶぅ!!」 「…………。」  うん、イケメンの情けない姿は爽快だね。  まー遊んでないでそろそろ本題に入ろうか。 「実はーー」 ーーー ーーーーー ーーーーーーー 「へぇ、つまりそのしいなちゃんって子と付き合ってるのに、晴翔はそれを覚えていないと。最低か?」 「いやいや、本当に知らないんだって。そもそも昨日が初対面なんだから」 「んじゃしいなちゃんの嘘ってことか?」 「んー、そうも見えなかったっていうか……」 「なるほどなぁ。晴翔の名前も知ってたくらいだし、ストーカー、とか?」 「うーん……」  ストーカー、か。それもなんだかピンとこない。  彼女の涙を堪えるような、切実で真剣な瞳が、昨日の出来事を夢や嘘みたいな簡単な言葉で片付けさせてくれない。  結局答えが出ないまま、授業が終わった樹の彼女と合流して別れることになった。ラーメンの代金はさらっと樹が払っていてなんだか負けた気がした。  去り際に樹は「あんまり考え過ぎんなよ」と言ってくれたけど、生憎見知らぬ彼女は僕の頭の真ん中に居座って目を逸らさせてはくれなかった。  もやもやしたものを抱えたまま、大学の門を潜って教室へ向かう。けっこう大きな学校で、休み時間は通路という通路に人が溢れかえっている。  そんな見知らぬ人だらけの通路でちらついた影。  気のせいかもしれない。一瞬だったし、別に深い知り合いでもない。  けどあの、薄茶色の瞳は。鮮烈に記憶に焼き付いている輝きは。何故か迷いなく、『彼女』なんだと分かってしまう。 「っ、しいな!」  気付けば、身体が動いていた。教室に向けていた足を反転させ、人の波を掻き分けて彼女の元へ。そうして掴んだ肩がびくりと震えて、記憶の中の彼女と同じ薄茶色の瞳が僕を捉えーー 「……ぇ、誰、ですか?」  昨日出会った彼女と同じ顔で、その瞳に困惑の色を浮かべて問いかけられた。
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