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私はてっきり花園葵になったと思っていた。実は自分でもこの名前が気に入っていた。なんかお嬢様っぽくて漫画の主人公みたいな名前だと。
それがまさかの沢木葵に沢木優梨。母はそんな大事な事でさえ報告してこなかった。さすが私の母。自分にしか興味がない。
「オッホン。そうです。本当にご存じか、かまをかけさせていただきました」
私はそれっぽく言ってみたが彼女は呆れたように口を開いた。
「その必要はありません。あなたがうちの傘下である会社で将来を有望視されながらも不倫をしていた事実まで把握しております」
「違います。事実無根です。あれは……いえ、終わったことはもうどうでもいいです。ろくに人の話も聞かなかったような会社の話を鵜吞みにされる方とこれ以上、話したくありません。帰ってください。優梨は絶対渡しません」
「あなたは借金がおありのようですね」
目の前に積まれていく帯のついた札の束。まるでドラマをトレースしたような展開。
「借金というか住宅ローンです。一生かけてでも自分で返済します」
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