Ep.6

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「花園をこちらに引き渡し、離婚するだけであの家はあなたのものですよ。離婚していただければこちらの小切手もお渡しします。一生働かずに生きていけますよ」  小切手には仕事でしか見た事の無い丸の数。 「そうですね。でも、優梨との時間は買えませんよね」 「あはは。失礼ですが、あなたご自身をお鏡で見られたことありますか?」 「ええ、毎日毎日嫌になるほど見ていますよ」  この顔を作るために。だからこそ、私が一番優梨に釣り合わない事は分かっている。 「ではお分かりでしょ。あなたには、この束1つの価値さえないことを」  顔が何だって言うだ。そりゃ綺麗な顔なら貢いでくれる人がいるかもしれない。優梨にだって釣り合うと言われたかもしれない。でも、シワもシミも、私がこれまで頑張ってきたからこそできたものだ。毎年何百万を貰うために、何億も稼いで、辛くても苦しくても悔しくても、ぐっと歯を食いしばって生きてきた証だ。お金を出せばこのシワやシミを消すことだって簡単だろう。でも、私は今の私を、この顔の私を誇らしく思う。
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