Ep.6

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   ***  葵の勇姿を目の当たりにして、俺は決心した。ちゃんと向き合おう。  昔から親に期待されることはなかった。よくできた3つ下の弟がいたから、俺は期待されることがなく、ただただ甘やかされてきた。何にもできなくても無条件に愛される。それが俺という存在だった。  弟は男の子らしい顔で、スポーツ万能で頭が良かった。それに比べて俺は女の子っぽい顔で、どんくさくて、勉強ができない。だから今までずっと自由に好き勝手に暮らしてきた。  それなのに、たった一つのことで大きく状況が変わった。  大学の頃に、あるコンテストで注目を浴びてしまったのだ。  好き勝手に描いていた絵を試しにコンテストに出してみたら入賞した。勉強はできないし運動も苦手だが、歌を歌ったり絵を描いたりすることは好きだった。会社経営には何の役にも立たないからこそ安心して自由に伸び伸びと学べた。  それなのに、入賞したことで父の周りの大人たちが俺に才能があると言い始めた。言うのは勝手だが、それまで弟をチヤホヤしていた人たちの一部が俺を会社に引き込もうとした。
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