Ep.6

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 俺は何も言わなかった。その頃、優醍は5歳にして天才的頭脳を発揮していた。俺が読めない漢字も読め、解けない算数も解けた。父が期待しているのは弟だという事を子供ながらに分かっていた。社長になるのは俺ではなく、優醍だ。  優醍が中学生に上がると周りの大人たちは優醍が次期社長と確信し、俺の周りにいた子供たちが優醍の周りに集まり始めた。俺は頭脳明晰、美男美女のお金持ちが通う美麗学園高等部に進学できなかったのだ。落ちこぼれのレッテルを貼られ、全ての大人の期待は優醍に注がれた。  大人は子供を自分の地位や体裁を守るための道具にしか見ていない。だから俺は父の会社の跡取りとして評価されるような事への努力を辞めた。自由に生きようと思った。優醍にも自由に生きるように伝えたが、俺が社長にならないのなら、自分がなると言った。社長になりたくてもなれない人はこの世界に沢山いる。なれない人の為にも自分がみんなの理想の社長になるのだと。  俺は優醍を尊敬した。俺は自分の事しか考えていないのに、優醍はみんなの事を考えていた。優醍こそが社長になるべき人なのだと。  だからこそより一層優醍の引き立て役に徹した。
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