Ep.8

19/20

3606人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
「そうですか? 優梨君を見ているとなんだか分かるんです。優しくて、でもちょっと意地悪で、強引で、きっとああいう男性を女性は求めているんだって」  そうなのだろうか。でも、そうなのかもしれない。優梨がただ優しいだけだったら、私はこんなに彼の家庭の事情に流されてなんかいない。 「真子ちゃんが優梨君の事好きだと分かっているからでしょうね。優梨君は真子ちゃんに期待させながら突き放して。きっと二人は付き合うことになるんでしょうね」 「え?」 「なんか腕組んで仲良く海の中に入って行きましたし、それもあって、僕は退散してきたんです」 「そうなんですか」  腕を組んで、二人で海の中? もうこれは浮気じゃないか。いや、浮気とは言えないかもしれない。でも…… 「ちょっと泳いできます」 「え?」  私は無性に泳ぎたくなった。目から出てきているのは塩水だ。涙じゃない。海の水だ。激しい心臓の音は一生懸命に泳いでいるからだ。何もおかしくない。何もおかしくなんかない。  勢いよく泳いだせいか、甘く結んでいたパレオはいつの間にか無くなっていた。優梨がくれたものだったのに。
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3606人が本棚に入れています
本棚に追加