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当たりを見渡したが見当たらない。というよりも周りに人がいない。そして底が無い。
泳ぎすぎた。バカだ。Tシャツを着ているのにこんなに遠くまで泳ぐなんて私の体力有り余ってたじゃないか。連勤明けで体力無いと思っていたのにとんだ勘違いだ。
とりあえず、砂浜を目指して泳ぐことにした。そのうちシェフが見えてくるだろうと思っていたが、暫く経っても私の視力ではシェフがどの人かも分からない。遠くに来すぎていた。我に返った私の体力は見る見る衰えていった。
あ、ヤバイ……。
もう限界……。
でも、命拾いしそうだ。さすがライフセーバー。来てくださったんですね。すみません。お手数をお掛けします。
私はできるだけ息を吸い、かろうじて手を上げてここだよと主張しながらゆっくりと海の中に落ちていった。
手を掴まれ、引き上げられ、抱えられた。
「息して」
私は揺さぶられ、大きく息をした。
「大丈夫です。息できます」
せき込みながらも小さな声で答えた。
「良かった。泳げる?」
聞き覚えのある声。
「とりあえず俺に捕まって」
私は彼の首に捕まった。細い体はシェフじゃない。
私の救世主。今度は彼が私の救世主。
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