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Ep.9
海に行ったあの日、私は優梨に助けられ、優梨が求めているのは私なのだと知った。真子がどんなにアプローチしようとも今の優梨には私しか見えていない、らしい。私も少しは素直になってもいいかもしれないと思うようになっていた。
数日後、仕事が終わり家に帰って晩酌をしていると優梨から電話がきた。
「もしもし」
「もしかして電話待ってた?」
「違うよ。ニュース見てただけ」
「嘘でも待ってたって言ったら嬉しかったのに」
ああ、可愛い女の子はビール片手にソファーの上で胡坐をかきながら電話に出てもきっと可愛い声でそう言うのだろう。可愛い声は出せないが、少しくらいは優梨の望みをかなえてあげよう。
「待ってた」
「え? どうしたの?」
「だって嘘でもいいって言ったから」
「端から嘘って分かってて言われても」
男を喜ばせる女になるのは難しいらしい。
「少しは優梨に喜んでもらえればと思ったけど。まあいいや、それで何?」
「うふふ。葵がそんなこと考えてくれるとはね。じゃあ俺が喜ぶご褒美頂戴」
「ご褒美? 言葉じゃ駄目なの?」
「命の恩人に言葉だけとは冷たいな」
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