Ep.9

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 私が控室に戻ろうとすると彼は私の手首を掴んだ。 「色々謝りたい。今日終わるまで外で待ってるから」 「迷惑です」  優梨は接客中でこちらに来ることはできない。チラチラとこちらを気にしているのは分かる。  優梨に誤解される前にと私は彼の手を振り払い、控室に戻った。  彼の連絡先は全てブロックしている。それに彼にはGPSが付いているはずだ。だから私の家だけでなく最寄りの駅すら立ち寄れない。  でも、なんでここが分かったのだろうか。 「葵、今日俺レジ閉めやるね」 「ごめん。ありがとう」  優梨は何も聞かずにホールでの仕事を私に代わって全てやってくれた。  みんなが帰った後、優梨が控室に入ってきた。 「一通り終わったよ。あの人誰?」 「あの人?」 「外にいる鼻ぺちゃで口とがってて、目がすんって細い、いかにもイジワルそうな背だけが取り柄のおっさん」  それが元彼ですと何故言えよう。そりゃ優梨とは天と地の差ほどあるが、あれでも私としてはかっこいいと思っていた。恋は盲目と良く言ったものだ。 「うん、昔の知り合い。優梨、レストラン先に行っててくれる?」 「やだ。一緒に行く」
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