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私が控室に戻ろうとすると彼は私の手首を掴んだ。
「色々謝りたい。今日終わるまで外で待ってるから」
「迷惑です」
優梨は接客中でこちらに来ることはできない。チラチラとこちらを気にしているのは分かる。
優梨に誤解される前にと私は彼の手を振り払い、控室に戻った。
彼の連絡先は全てブロックしている。それに彼にはGPSが付いているはずだ。だから私の家だけでなく最寄りの駅すら立ち寄れない。
でも、なんでここが分かったのだろうか。
「葵、今日俺レジ閉めやるね」
「ごめん。ありがとう」
優梨は何も聞かずにホールでの仕事を私に代わって全てやってくれた。
みんなが帰った後、優梨が控室に入ってきた。
「一通り終わったよ。あの人誰?」
「あの人?」
「外にいる鼻ぺちゃで口とがってて、目がすんって細い、いかにもイジワルそうな背だけが取り柄のおっさん」
それが元彼ですと何故言えよう。そりゃ優梨とは天と地の差ほどあるが、あれでも私としてはかっこいいと思っていた。恋は盲目と良く言ったものだ。
「うん、昔の知り合い。優梨、レストラン先に行っててくれる?」
「やだ。一緒に行く」
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