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「もう食べられません」
偵察はお金だけでなくお腹も必要だった。無駄にはしてはいけない思いから必死に二人で完食した。店を出て駅まで歩く足が重い。
「僕もです。これ以上は味の評価に影響が出るので今日はこのくらいにしましょう。お腹が落ち着くまで映画でも見ませんか?」
「そうですね。どこかに座りたいと思っていたので映画なら食べ物も飲み物も買わなくていいですし、そうしましょう」
私達は目の前にあった映画館に入り、10分後に上演が始まる恋愛ものの映画を見ることにした。
シェフの体が大きいので肩が触れたがお腹一杯だったこともあり全く緊張しなかった。そして私は寝落ちしてしまった。しかもシェフの肩を借りて。
「――わきさん、沢木さん、起きてください。終わりましたよ」
目が覚めると既に周りは明るく他の客もほとんどいなかった。
「すみません。お腹いっぱいで」
「僕も寝そうになりました。お腹いっぱいだと眠たくなりますよね」
寝てしまった私を擁護するような発言。シェフは本当に優しい。
私達は席を立ち、映画館を出た。
「それでは今日はこれで。もしよかったらまた一緒に回ってくれますか?」
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