Ep.11

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 夕方、混んでもいない店内で私の席に誰かが相席してきた。本からゆっくりと視線を外し、目の前の人に焦点を合わせていく。  テーブルに肘をつき、手のひらに顎を乗せた美形男子がまっすぐ私を見て座っていた。 「何してるの?」 「それはこっちのセリフ。なんで休み取ったこと言わないの?」 「別に。てか、なんでここにいるの?」 「真子がみんなに二宮金次郎がいるって写真送ってきた」  私は真子を見た。ちょうどこちらに向かってきた真子が私達のテーブルにジュースを置いた。 「こちら店長のわ・た・しからのサービスドリンクです」  にっこり笑って真子が言った。 「そうだ。真子店長になったんだよね。おめでとう」 「ありがとう。優梨君にもおめでとう言える日が来るといいね。それではお・ふ・た・りでごゆっくり」  真子は不思議なことを言いながら仕事に戻った。  優梨は一気にジュースを飲むとお金をテーブルに置いて真子にお礼を言い、私の腕を掴んで立たせてカフェを出た。 「あの、痛いんですけど」 「俺はせっかくの誕生日を台無しにされて心が痛いんですけど」 「ごめん。邪魔して」  私は必死に笑顔を作ったが、優梨は私を見る気配がない。
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