Ep.13

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 そんな簡単に仕事を辞めることができるなんてできない。社会的責任感もある。  でもなにより優梨と結婚できないとなったとき、結婚を理由に1年も満たずに会社を辞めてしまっては転職時の印象は大きく変わってしまう。  これがまだ20代前半なら許されるだろう。でも私はもう30代。若気の至りでは済まない年齢だ。  でも、それでも優梨の為に辞めるべきなのだろうか。あれだけ優梨の為にと思っていたのに、私はすぐに判断ができない。優梨は私の為にいろんなものを犠牲にしているのに。 「仕事は止める必要ない。それにそんなこと身に着ける必要もない」  優梨はそう言ってくれた。仕事を辞める決心はつかない。そんなに簡単に何もかもを捨てられる年じゃない。 「ありがとう。仕事は続けさせてもらいます。でも、優梨の相手にふさわしい人になれるようにそれらは勉強します。頑張りますのでよろしくお願いします」 「葵、無理しなくていいからね」 「大丈夫。優梨だって私の為に頑張ってくれているんだから」 「話がまとまったようなので俺はこれでいいかな」  ずっと黙っていた優醍君が眼鏡をキラリと輝かせて立ち上がり部屋を出た。それを合図にしたかのようにお父さんも部屋を出た。
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