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「着物を1着も持ってないなんて本当に信じられないわ」
そう言いながら貸してくれたが、私は何故かお母さんのお古を貸してくれることが妙に嬉しかった。
私は優梨のお母さんを手伝い、お正月の準備を始めた。食卓に並ぶおせち料理は今日まで二人で作った品々。よく見ると椅子の数と食器の数が多い。
「あの、枚数が多いいようです?」
「多くないわよ」
家政婦さんは今日休みのはずだ。おじいさんの分を含めても1枚多い。他に誰が来るのだろうと思っていると、次々に男性陣が席に着いた。こうやって改めて見ると美しい家族だ。この中に私がいるのは場違いにも程がある。
「そろそろね」
優梨のお母さんがそうつぶやいた直後、チャイムが鳴った。私はお母さんに言われて玄関まで客人を迎えに行くと精一杯正装した母が門の前に立っていた。
「お母さん、何で?」
「葵。なんでってこっちが何でよ。優梨君孤児じゃなかったの? こんな大きなお屋敷のお子さんなんて。話聞いて心臓飛び出ちゃったわよ」
心臓が飛び出たら死んでるはずだが、目の前の母はピンピンして目を輝かせている。
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