梅雨明けのある日

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梅雨明けのある日

「さゆ~っ?覚えてっかぁ?明日だぞ!」 私達、吹部のフルートパートの練習場所は野球部とサッカー部の部室裏にある。 梅雨明けのグラウンドはスプリンクラーが回っていて、その埃臭さと時折吹く涼しい風が夏の始まりを教えてくれている。 部室から校庭に出るコンクリートの上をサッカーのスパイクを引きずる様にザッザッと歩く音がする。 誰の足音かなんて見なくてもわかる。幼馴染みの蒼真(そうま)だ。その蒼真が明日の約束の事を言っている。 私は面倒くささ全開で返事をした。 「わかってるよ~」 蒼真は私の返事を聞き、片頬を上げて笑った後、小走りでグラウンドに向かった。 同じフルートパートの眞子がいつもの事を言う。 「早由利ってさぁ……」 「あ~っ!もういいよ。かっこ良くて、スポーツ万能で、優しくて。そんな八木蒼真とただの幼馴染みなんてもったいな~い! ……でしょ?そんな事より練習しよっ!今日は合わせあるんだから」 眞子の言葉を遮り、顔も見ずに譜面を捲りながら先回りして言うと。 「チッチッチ!」 眞子は顔の前で人差し指をメトロノームの様に振りながら。 「早由利知らないの?この前の中間試験の結果。八木蒼真が1位だよ?だからもう一つ足りない。その上頭がいい!」 「えっ?だって蒼真って中学の時私より成績悪かったよ?」 どうした蒼真……。いっか、明日聞こう。 眞子は思い出したかの様に 「あっ、いけね!ちゃんと練習しなきゃ、野球部の応援演奏あるんだった!」 幸そうに銀色に光るフルートを口に当てていた。
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