リアル

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リアル

リカ〉そうなの。言ってませんでした?あたしは17才です。 髪が長くて華奢ってよく言われてる。絵を書くのが好きかな…? ケンタ〉そうなんや、そういやリカちゃんもこのサイトのもう常連やなあ。一度会いたいわ!なんやイメージ的に大和撫子?(笑)で目ェクリクリな感じがする。 ピノキオ〉おいケンタお前だけが思ってる訳じゃねえだろ!俺もめちゃんこリカちゃんの事スキだっつうの。 リカ〉あはは、ありがとー(╹◡╹) でもそんな事ないですよ!普通の子です!でも此処は本当に落ち着きます。学校じゃキャラ作ってるんで★ カンナ〉リカちゃんもぉ、私と同じだねぇ…。本当リアルって疲れる…。 ピノキオ〉リアルはいらんのか(笑) ケンタ〉いやいらんへんよ! カンナ〉リアルなんて本当の自分じゃないよ。 リカ〉…… 【リアル】 リカ〉あ、親が呼んでるんでこれで落ちますね。じゃあおやすみなさい★ ……………… キーボードを打ち終えパソコンの電源を切るその手はどう見ても女子高生には見えないゴツゴツとした指だ。 風貌は異様に鋭い瞳、白いストライプスーツの下に隠されている体は鍛えられている。 実際に顔も体も今年45とは思えない様な体だ。 男なら憧れを抱くであろう理想の肉体を持っていても欠点はある。 高価な指輪が二つ三つついている左手には一つ小指が欠けているのだ。 しかし男は指の一つや二つ無くしたとしても気にならぬ業界にいるので本人は悔やんでいない。 「組長。まだ帰んないんすか?」 不意に社長室とかかれたドアが開かれてガラも頭も悪そうな金髪頭が顔を出した。 桑田はオールバックにした艶やかな黒髪を一撫でして相手を見ずに少ししゃがれた声で喋る。 「龍、社長って呼べって言ったろうが。何度も何度も…何度も言ったよな?」 ゆっくりと底音で喋りながら相手を見上げ不意にドン、と大きな拳で机を叩いた。 眉が寄り、目は吊り上がる。しゃがれた声は普段怒鳴り散らす人間に特有の持病だ。 「あぁ?聞いてんのかこのチンカス!親の言う事も忘れちまう子分なんざ俺ゃあ要らねえんだよ!女の所でヒイコラ精子ばらまくだけの脳なしかテメエはコラ。いいか、組長なんてもうイッペン言ってみろ。テメエのその玉、引き千切ってお前の目の前で犬に食わせてやろうか」 そうドスを聞かせると普段の優しい仮面を被り桑田はにっこりと微笑んだ。 「解ったか龍。社長だぞ?もう組だの、なんだの言う時代じゃねえんだ。ヤクザなんて言ったら恥ずかしいって笑われるだけだからな?」 ん?と首を傾げる桑田を顔を青くしながら龍はガクガクと顔を振った。 「すいませんっした社長。失礼します。」 龍は戸を閉めて胸を撫で下ろしながら深い溜め息をついた。 …やはり桑田は苦手だ。冷酷で人を虫ケラとしか思わない。故に45歳と言う若さで菊本組の頭になった。 いや桑田の言葉を借りるならば「株式会社菊本金融」の社長になれた訳だ。ただの下っぱでチンピラになりたての自分には顔を合わせる事も恐ろしく感じる。 力も頭も切れる上司は部下にとっては扱いにくい。 普通の会社ならばそんな上司は酷く羨ましがられるだろうが、頭が切れると言うのは悪知恵が働く。 力と言うのは暴力と言う事だ。おまけにこの業界は退社と言う言葉など有り得ない。 1年立って駄目だと思えばもう10年。馬鹿にされてももう10年。死ぬまで親分には逆らえない。逆らえば破門だ。 破門。龍の体が震えた。 それはカタギでもヤクザでもなく一生落ちこぼれの烙印を背負う行為。それだけはごめんだった。 「おい、龍。社長どうだった?」 ポン、と肩を叩かれて振り向くと自分が極道な業界に入る理由になった人物がそこに立っていた。 「孝二さん!いや…副社長…」 ゴニョゴニョと言い直す自分を孝二さんは気にするなとばかりに笑って首を振ってくれた。
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