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離宮を出たところで、改めてアルテミシアは、敬愛する師に祝ぎの言葉を送った。
「ユノ姉様にマスター、素晴らしいお二方の間にお生まれになった姫様のご誕生、改めておめでとうござーーマスター?陛下?アリエール先輩?」
誰もいなかった。
私から完全に姿を消すとは。
ふう。一息吐いてアルテミシアは集中した。
イシノモリ流武闘術探索法、「水鏡」
極限まで研ぎ澄まされたアルテミシアの感覚は広がり、自身を中心とした円形を為して離宮を取り囲んだ。
30メトル先を走る鼠、15メトル先を這う虫。
その頃のアースツーではまだメトルにキロルと呼ばれていた。
その後、八王子から戻ったジョナサンによって、メトルはメートル、キロルはキロに改編、というよりは元に戻っていた。
多種多様な生物が蠢く中で、何と言うかフンフンハアハアと言う音が聞こえた。
「慶事って重なるね?アリママ♡大きくなったお腹ナデナデさせて♡」
「ひいん♡おっぱいムニムニやめてくださいまし♡ムフ♡ああ甘いキス♡愛してますわ貴方♡」
「帰る前に休憩していこっか♡アリママのどんどん成長してるおっぱいに顔埋めたいハアハア♡」
「躾の♡なってない♡ワンちゃんですわね♡ひいんお尻駄目ですわ♡」
アルテミシアは何も聞かなかった。
迂闊に突っ込むと取り返しがつかなくなりそうだからだ。
気になる男性はアルテミシアにもいた。
幸せそうな王様が愛人と出てきた。
2人がしけ込んでいたのは、離宮の外れにある薪小屋だった。
「とりあえず命を繋いだな。寄ってたかっておさびし村の連中に殺されることはなくなった。あーカノン可愛いな!俺の中に尽きせぬ愛って奴がだな!何たってユノの子だし。ママソックリの匂いがしたしな!」
父ちゃんは今すぐ取って返して娘をクンクンしたそうだった。
「それ以前に気の強さが尋常ではありませんマスター。村長夫妻様すらもて余しそうです」
「そうだな。ユノを離宮に住まわせたのは正解だった。おさびし村でもいいかもしれんが、いかんせん遠すぎるしな。ユノとカノンは放っとけない。さっさと片付けちまおう。アリエール、もう一回セントラルに転移を頼む。やっぱりスパリゾート経由か?迂闊に温泉に泊まりたくなっちまった」
ドレスの上からお腹を撫でたエロ犬の姿があった。
「中央大陸は広すぎますわ。一日待てばダインクーガーを橋頭堡に出来ますわ」
「ダインクーガーは今度にしよう」
ジョナサンは、ダインクーガーに住むもう一人のおぼこ愛人に、顔面を蹴られたことを忘れていなかった。
「俺をメゲレの端っこに置いたら、アリエールとアルテミシアはサンチャに行ってくれ。フラさんはそろそろ限界だろうしな。お前等は知らないが、あれでフラさんその辺の蛮族みたいなところがあるからな。生徒時代にうっかりおっぱい触っただけで殴り飛ばされたし、タルカス諸共ボコボコにされたこともあった。下手すりゃセントラルに単騎突入かますだろう。ありゃあ王妃様だあ清純そうなママだあって顔してるが、イーライんところのセタンタ(元ヤクザ)辺りと変わらん。すぐに喧嘩おっ始めるし、始まったら最後、相手が死のうがお構い無しに殴り続ける奴だ。前の革命騒ぎの時に、1番人を斬り殺したのはフラさんだ。生徒時代にM-1に出るかもしれないって話があったが。今ならハッキリ言える。誰も勝てんぞあんなのには。ユリアスですら瞬殺だ。そう言う女と結婚した俺の気持ち解る?」
話が随分長かった。
何か、私の城に来たのも解りますわね。何かに怯えていた理由が。
ところでアリエールは覚えていた。ユノの妊娠を正直に打ち明けたジョナサンの股間を思いきり蹴り上げた瞬間を。
「先生はお1人で大丈夫ですの?」
「何とかする。してみせる。アカデミーとセントラルが全面衝突なんかさせる訳ないだろうが。俺を信じろ。アリエール、アルテミシア。俺はさ、王様としての振る舞いとかそう言うのはまだ解らんが、さっきミラージュが教えてくれた。ああいう空気なら簡単だ。あとは俺のアレに聞いてくれ」
大丈夫なんですの?
つい、アリエールはジョナサンのソレに聞いてしまった。
ソレは何も答えなかった。
よく考えたら答えは自分のお腹にいた気がして、お腹の子は今初めて、母親のお腹をポコンと蹴っていた。
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