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アカデミー王妃挙兵す
学園国家アカデミーの東の平原に、きっちりと整列した約1万の軍勢があった。
列の前列にいるのは、3人の魔法剣士。
カルミナ・フェラータ、サンドラ・アルテイシア、フォルトゥナ・ブラーナ。
通称ラン、ミキ、スー。
魔王をしてアカデミーのキャンディーズと呼ばれていた。
前の革命騒ぎの時、彼女と剣を並べて戦ってくれた愛弟子達だった。
卒業後は国防軍に入ってくれていた。
その後ろには、アカデミーの元生徒達が100人。
アカデミーに侵攻した旧南の大陸の傭兵団から、アカデミーを守った、実戦経験者達。
今の平和になったアカデミーにおいて、野伏せり相手と言えど実の戦闘経験者達は得難い人材達だった。
「兵の数は力の数よ。爆裂魔法、火炎魔法、疾風魔法、何でもいいの。生身の男を殺傷したことがある子達。それを知っている貴女達は貴重な戦力よ。あの子の居城にこれから攻め込むわよ!」
「あのよ。先頭きってお前が焚き付けなくてよくねえか?」
ゲンナリして言ったのは、学園国家になる前の、フランチェスカとジョナサンの同級生、現アカデミー警備局長兼国防軍将軍のタルカス・シーボルトだった。
「部下共も半分引いてるぜ。ジョナサンだろ?あの女王が妊娠するまで王宮にいるんだろ?今更じゃねえか放っとけあんなのは」
喉元に白刃が突きつけられた。
当たり前にタルカスは万歳した。
「確かに、ユノに始まってアリエール、エメルダと妊娠が続いた。それは仕方ないの。問題はあの子がうちの人を独占し、占有しているってことよ」
「王妃殿下の大事な犬を占有する悪い銀狐を誅しましょう!殿下!素敵なママ殿下!」
「それはそれとしてぎゅーっとされたい私がいます!大きなおっぱいで息が出来なくなるほどの!素敵なお姉様!」
「悔しいけどあの腐れ犬は殿下のものです!浮気ばっかりしてる躾のなってない犬をうっかり蹴ったりしても怒りませんよね?!お姉様先生!恩を返させてください!卒業生は王妃か犬って言ったら断然王妃派です!」
キャー!お姉様素敵ー!
いーぬ死ね!いーぬ死ね!
という声がした。
「ね?卒業しても可愛い生徒でしょう?」
言われて応えられるかよ。
勿論タルカスは知る由もないが、百合社交クラブイプシロン・ゼータという女神フレイアを信仰する組織があって、口角を吊り上げて叫ぶ三人娘は、どう考えても本性はそれと思われた。
三人娘は本当のところイプシロン・ゼータとは関わりがなかった。
「フラ好き好きコミュニティ」という小規模同好会を開いていた。
とりあえず会員数は103人いた。
この約1年後、イプシロン・ゼータはブチギレたジョナサンとマキシマス・フレイアの手によって滅ぶことになる。
「この前、セントラルで全ての大陸において連合が締結されたのよ。五大陸連合発足と同時に、ジョナサンを知ってる子達が揃って条約を結んだの。サウスフォートとノースアイランドを除き、ダインクーガーを含めた相互平等条約。うちの人を軟禁するなんて明確な条約違反よ。アルテミシアはどうするの?私の敵?」
とりあえずフランチェスカにとって、全ての人間は敵か味方でしかなかった。
「勿論味方です殿下。怖いのでついていきます。身重の姉様に代わってお役に立てましょう」
ああそうだった。ユノは今臨月だったよな。
臨月の愛人放っぽって何してんだあいつ。
「殿下。ちょうど斥候に放ったニルバーナからメールが来ています」
アルテミシアの携帯にはこう表示されていた。
メゲレ方面の城壁前に一個大隊を発見せり。あの大隊長と下士官はウホ。下士官Ⅹ大隊長と思われます。ティッシュ持ってきてください先輩。
このメールを見て、王妃の戦意は頂点を越えた。
「最寄りの法陣は?」
「ニルバーナのもたらした地図座標によると、王都の外環街のサンチャの法陣があります。たった1キロで会敵可能です」
そう。剣で空気を切り裂き、フランチェスカは兵、というより自分のファンに向かって言った。
「サンチャに陣を置く!うちに加勢してくれるイースト・ファームが揃えば、私の勝利が確定する!浮気者のパパも許さないけどそれ以上に!マリルカだけは斬る」
最後の部分は静かだったが兵列の端でもハッキリ聞こえた。
駆り出された兵卒(アカデミーに徴兵制はない)は、何で自分が国防軍に入ったのか、一瞬忘れそうになっていた。
あの、星を救い国を、家族を滅びから救ってくれた男がいたからついてきたのに。
国防軍が組織されて最初の国家間緊張が、よりによってその男と犬泥棒成敗で隣国に攻め込むとかどうかしているとしか思えなかった。
ジョナタルによって鍛え上げられた軍の練度も規律も装備もほぼ世界最高。
後にアースツーにも自衛隊がいたと評されるアカデミー国防軍の最初の戦闘が、サンチャで?
サンチャは王都に最も近いオシャレな街で、兵達も何度かサンチャには赴いていた。
セントラルの女の子達との合コンとかで。
キビキビと動き出した王妃の背中を、1万の兵達は、実にウンザリしながらついていくことになった。
この後、サンチャを占領したアカデミー軍は、そこを拠点としてセントラルに侵攻しようとしたが、思わぬ妨害を受けしばし停滞することになる。
王妃は、セントラルのミラージュ女王を見くびっていたことを思い知らされることになるのだった。
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