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城壁に開いた穴をこじ開けて、大小2つの破壊神は、中央国家セントラルに足を踏み入れた。
何とか駆けつけた兵達は、仰ぎ見る白銀の巨龍を、ボンヤリと見送るしかなかった。
「じゃあ王都を無差別に爆撃しつつ王宮のど真ん中にあれよ。ゴーラのブレスを吐いて」
「王宮にジェノサイドブレスを吐けと?流石に1万人くらいいるセントラルの人達を皆殺す羽目になるよ?いいの?私は嫌。もう帰る。マリルカに腹が立つのはいいけど、市民を虐殺するって流石に、この子の出力が急に落ちてるし。この子もやりたくないみたい」
「この期に及んで日和見するのあんたはあああああああ?!」
「とりあえず、これあげるんで勘弁してください。緊急脱出用のゴーラ・フライヤー1号。凄く速くて硬い。魔王によるとジオに突っ込んでも連れていかれない設計になってるって。展男シールドは万全だ!ふはははは!って言ってた」
貴女は何を言ってますの?
「ジオって?」
「まあいいわ乗ってアリエール。決戦の時が来たわ。マリルカ殺すうーううううー」
それ、歌うんですの?
訳の解らん歌を歌うフランチェスカに、アリエールはついていくしかなかった。
この裏切者め。ゴーっと飛んでいくエメルダに、呪詛を送っていた。
王宮の首相官邸の窓を突き破って、白銀の乗り物がノーブレーキで突っ込んできた。
機首が目の前スレスレで壁に突き刺さっていて、悲鳴を上げないのは流石と思ったが、モノクルの賢人、首相のガリバー・クロムウェルは、モノクルが落ちてしまっていた。
凄い顔引きつってますのね。
「ーーーーこれは?」
そう言えただけ大したものだと言えた。
恐ろしい殺気を振り撒いて、帯剣した蛮人妻が出てきたのだから。
「あら、あの馬鹿いなかったみたいね。お騒がせしました」
「まあ陛下はおりませんが。今、他の議員達と打ち合わせをしておりました」
「あら?まあお父様!」
「アリエールか!母上が心配していたよ!我がエマニュエルが!お腹は大丈夫かね?!父は今さっき死ぬところだった!」
アリエールの父親、運輸大臣のエンポリオ・リトバール卿が言った。
「お母様?どうせ今ごろ若いオペラ歌手にキャーキャー言ってますわね。「椿姫」、エマニュエル・ヴァレリー・リトバールは」
父娘の間にあった話題は、ゴージャスの真の体現者、元歌姫の母親のことだった。
「今日は5本団扇を持っていった」
「イケメンハシゴしますのね。お母様によろしくお伝えくださいまし。私は今、恐怖の移動する爆心地に付き添ってますの。邪魔しないでくださいまし」
「2、3釈然としないけど、うちの人はどこにいるの?」
「陛下の寝室に籠っておいでです。この頃の陛下は落ち着いた、娘っぽさもなく実に堂々と公務に励んでいらっしゃるご様子。ただ、時々不可解な中座を」
恐ろしいことに流石はクロムウェルだった。
既に背景含めて察しているのだろう。女王の近況を簡潔かつ的確に伝える辺り、只者とは思えなかった。
「ありがとう。ねえ首相さん?もし、女王が子供生まずに生きたまま解体死したとして、セントラル政府は困るの?」
物騒極まりないことを言って、最重要同盟国の王妃は、剣を抜き放って言った。
「政府レベルとしては言語道断な狂気の沙汰ではあります。セントラル憲法の王宮典範によれば、王はその万世一系の血筋により、その正当性をもって権威として即位するとあります」
「簡潔に」
転がっていた石膏像の首をぶったぎった。
確か、5代前の国王の像でしたわね。
「陛下の遠縁の元伯爵夫人がおりますので問題ありませんな。大忙しですが」
首相は我が身可愛さに女王を捨てたぽかった。
「ありがとう。葬式も大変ね。邪魔しないでね」
蛮族王妃は出ていった。
一礼してアリエールも去り、他の議員が言葉を失っている中、多少慣れていたエンポリオは、クロムウェルに言った。
「あっさり陛下を売りましたな。首相閣下」
「陛下の指示書に従ったまで。英雄王殿にヒイヒイ言わされる前のことであるが」
かつて、アカデミーを襲った脅威に対して的確すぎる指示を纏めたマリルカノートは、今はミラージュノートと名を変え呼ばれている、軍の最重要機密の一つだった。
「とりあえず、私は英雄王殿を信じようと思う。内縁ではあるが娘婿であるし」
今ある関係性、心情を加味した最適解は何か。
クロムウェルは常に考えていた。
本気でアカデミーとセントラルがぶつかれば、行き着く先は世界大戦しかない。
王妃は殺る気満々だ。
よりによって、アカデミーの国母である彼女が、真っ先にセントラルに単騎突入するとは。
「英雄王殿はまさに英雄色を好むがごときヤリーー健啖家であるが、目の前の戦火を放置するような方ではない。かつて、世界を救った救星の勇者に託すよりないとは思う。問題は、先ほど破壊された城壁の修繕と」
鋭い何かが一閃し、広い官邸を両断していた。
「ひ、ひいいいいいいい!儂のカツラがああああああああ!うひいいいいい!」
カツラを斬り飛ばされたのは、成金主義の三流政治屋の元男爵だった。
まあ、所詮はおこぼれで比例で議員になった男だし。
「大丈夫かね?ズラ元男爵」
さっき銃声がした。
纏めて薙ぎ払われたか。王妃殿下。
恐らくは風の大剣。ジークフリード・ルバリエの風刃一閃。
今は父上以上か。城壁を切り裂いたことと言い、流石は勇者の妻か。
「王宮も直さねばならんな」
クロムウェルはボソッと呟いた。
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