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史上最低の諍い
時折発生する切断音が響き、寝室の扉を切り裂いて、学園国家アカデミー王妃、フランチェスカ・ルバリエ・エルネストが入ってきた時、中央国家セントラル女王、ミラージュ・デラ・ウィンシュタットは、
「ぼー。ぼー」
汽笛を発していた。
グースカ寝てるわね。この馬鹿は。
っていうかうちの人拐っといて何様?
そもそもダーリンって言い方凄い腹立つのよ!お陰で彼を呼びづらいじゃないの!
フランチェスカの殺気を察知したのか、かったるそうに目を覚まして背伸びをした。
「ああああああああ?あれ?フランチェスカ?よく1人で来たわね?エメルダはケツ捲ったしイゾルテはまあ、ダーリンのワンちゃんしか今は考えられないし。ああ、唯一ついてきそうなアリエールは?」
「部屋で今気絶してるわよ。隅のリネン部屋で」
「欲求不満にしちゃ酷いわね。アリニャンちゃん味わってきた?ダーリンの味した?」
どこまで不快なのよこのビッチ。
うちの人2か月近く独占したのあんたでしょ?
「もうあんたは越えたのよ分水嶺を。あんたが武器を持ってなくても関係ない。大陸間相互平等条約違反よ。これ聞きなさい。真っ先に集めたのよ。あんた以外の子達の糸会話を」
アプリを立ち上げ、ボリュームを最大に上げた。
「マリルカが?私は先生にうんと優しくしてもらった。赤ちゃんも出来た。先生を独占しちゃ駄目よマリルカ」
「馬鹿なことしましたわね。相互平等条約違反なんかしたら、政治的云々以前に友達なくしますわね。先生は独占出来ない。そうですわね?」
「今の私はしぇんしぇいが好き。マリルカは女王としても友達としても間違ってる」
「友達みんなが大好きな先生を独占するマリルカはエンガチョです。先生は私の赤ちゃんの父親ですから」
「そういう言い方あるかあああああ!ダーリンは私のもんなのよおおおおう!フランチェスカなんかに渡せるかああああああ!」
「だから喚いたって無駄よ。あんた達とそうなる前から、彼は私んだもの」
「認められるかああああああああああ!!うう?うぷ?」
やおら口を押さえた女王の姿があった。
その様子を見ていたフランチェスカは、女王のベッドの横に腰かけ、ハンカチを唇に当てた。
「ああやっぱり。そんな気がしたのよね。イゾルテも多分だけど、それならあんたはもう。ちょっと熱っぽいんでしょう?妊娠の兆候よ。全く、あの人あんたに言ってなかったでしょう?そういう男よ彼は。女の辛さを全然理解してないんだから。お腹を大事にね?折角授かった赤ちゃん死なせたら、彼は残念がるもの」
女王は息を飲み、大声で泣き出した。
「どうしよう?!どうしよう?!こんなきついなんて!騙したなあの犬ううううううううううう!」
「気持ちは解るから興奮しちゃ駄目よ?安静にしないと。安定期までは気をつけないと。ね?赤ちゃん可愛いでしょう?つわりが重いとちょっと憎くなるけど」
「ひ、ひいいいいいいいいいん!ママあああああ!うああああああああああん!!」
幼児返りした女王にしがみつかれて、フランチェスカの殺気は霧散消失していた。
「ああもう。ぶった斬ろうと思ったのに、蓋開けてきたらつわりが苦しいなんてもう。バラバラに斬ってお腹開いて「何も入ってないじゃない」って言おうと思ってたのに。憎みきれない子ねー。マリルカ」
物凄いサイコな結末を考えていたという。
「ご、ごべんだたあああああい!やっどダーディンと出来て嬉じがっだのおおおおお!ディーデはうぞばっかいうじいいいいいいいいい!」
フランチェスカの膝の上を陣取って、ミラージュ女王は女王の癖にいつまでも泣いていた。
あ、枕の下に銃があった。
やっぱりこの子腹にイチモツありそうね。
何とも尻すぼみで、アカデミーとセントラルの全面戦争は未然に防がれた。
この子生意気だし、散々妨害とかしてたけど、蓋を開けるとやっぱり可愛い元生徒なのよね。
「あ、突然足がダルくなってきた。マッサージして?」
甘くすればこれだ。
やっぱり斬っとけばよかった。
最終的に、フランチェスカは釈然としなかった。
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