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友達の家
ジョナサンは、ジェイドの家を訪れていた。
「お邪魔して悪いね。ユニエスも久しぶり」
ユニエス・リリーマルジュ・ブレイバルは、生まれたばかりの次男を抱いてジョナサンを迎え入れた。
ニコニコ笑ってジョナサンは指を差し向け、ちっちゃな手がきゅっと握った。
どんなにちっこい生き物でも、縄張りに入る時は礼を尽くす。犬のルールを赤ん坊は受け入れていた。
「お久しぶりです王陛下。ご飯食べてってくださいね」
ユニエスは、ジェイドの幼馴染みで、前のユリアスの後継者事件の時に、ジェイドを支えてくれた女性だった。
ユリアスの息子を託されたのを機にジェイドと正式に結婚。王立犯罪捜査室の事務官をしていたが、次男の妊娠に際して寿退官していた。
あー。いいママさんの匂い。落ち着くなあ。
穏やかな食事を御相伴になり、ジョナサンには穏やかさが満ちていった。
「あー。シリウスかー。いい名前だなー」
クンクンしたが、遺伝上の父親の匂いはなく、本当の両親の匂いがした。
「平和なお前んちが羨ましいよ。俺んちは平和と思いきやどこかきな臭いんだ」
「それはお前が浮気ばかりしているからだろう。セントラルですらソルスに焼かれろドスケベ国王と別れ際に言うのが流行っているくらいだ」
「ソルスソルスうるせえよ。相互平等条約が出来た時は流石に暗澹たる気分になったぞ」
「浮気ならジェイドもしたわよね?ちょうどジュニアが出来てお祝いしようと思ってたのに」
洗い物をしていたユニエスが言った。
「それは言いがかりだ!お前のところのひまわりが!いきなりパンツを見せてきて!」
ああ悪かった。そりゃあルルコットのジュース飲んでユノが大きくなってて。
「ミラージュとアリエールまでどっか行っちまって、探しに行ったら街中でいきなりお前に斬りかかられた。マルガレーテのカジノぶっ潰したんだったっけ」
「当時は愛人ではないが、生徒の管理くらいキチンとしろインチキ教員!」
「おい。うるせえよジェイド。やっと寝た子を起こすなよ」
案の定、子供が泣き出した。
「あー。ダメ親父が寄越せ!んー?どうしたー?父ちゃんの友達の王様だぞう?」
顔立ちがどこまでもジェイドに似ていた。
「何だ。禿げたお前じゃねえか。ちっこいハゲジェイドが泣いてる。あー、よしよし」
流石2児の父親と言うところだった。
ジェイド・ジュニアはくーくーと寝息をたて始めた。
「見事ですよ王様。昔とおんなじ。ジュニアの相手が出来るのは王様だけですね。よく懐いてますね」
むう。ジェイドは唸った。
「蓋を開けたらただの泣き虫小僧だった。お前を怖いと思ってる城の人間に見せてやりたいよ。未だにユリアスの弟って思われてるのにミラージュが重用するんで周囲はビビってる。ミラージュは流石だと思うが、あいつのほぼ側近になってる。無茶な人事とお前も俺も思うが、普通にやってればいずれ得難い人材と解るさ。改めてよろしくな。ジェイド」
「思えば何でお前を家に上げたんだ。俺がいない時にユニエスや子供に会ったら即連行する。この浮気犬め」
「俺がユニエス相手に浮気する訳ないだろうが。いい加減にしろよ。お陰で街にすら出られなくなった。実家に帰ろうと思ったら誰もいないし。よく考えたらうちの親はアカデミーにいるんだった。そう言えばその観葉植物、オヤジだよな?」
「ジュニアが生まれた時にお祝いでいただきました。育て易くてモリモリ伸びてます」
まあオリーブの木だしな。
王宮内にある新居だが、庭があればいいな。
「アカデミーに来たらすぐに庭付きの広い一軒家を提供するぞ。久しぶりに三人で連もうぜ。ミラージュより支払いがいいのだけは保証する」
「陛下は流石に目が離せん。お前とは別の意味で恐い。おい」
扉の向こうを顎でしゃくった。
思ったより早いな。
ジョナサンは立ち上がった。
ジェイドの書斎は懐かしい匂いがした。
相変わらず捜査官だよな。
ユニエスも子供もいないこの部屋。ジョナサンとジェイドの密談は始まった。
「陛下に近衛の座を用意されたのは、勿論俺1人で妻子を養うと言う金銭問題はあるにはあったが、その実、兄貴の、ユリアスの残り物をキチンと処理すると自ら約束したからだ」
子供を養う際の金銭問題は、若いジェイドの勇み足と言えた。
アカデミーに引っ越してくれれば子供にかかる費用はほぼないと言っていい。
その為に税制を考えに考え、更には科学研究所も開設してあった。
それはそうと。
「まだ残ってたのか」
ユリアスの残り物。それは、かつてユリアスが殺した女の遺体を意味していた。
血縁はないが、やはりジェイドはユリアスに育てられた弟ではあった。
「連合に残されていた資料が役に立った。お陰で、残り物はもうない」
「別邸はまだあったのか?」
2人の間の共通認識。ユリアスの別邸。
それは、ユリアスの殺害現場にして遺体保管所だった。
「発見したのは3ヶ所あった。計500体の遺体が。発見した陛下は見事としか言いようがない。陛下が直々に組織した武装警察官は、全てを焼却した」
「本当の意味で、ユリアスは終わったんだな。よかったよ。俺もホッとしたよ。アースツーからユリアスの存在が消えて」
ジョナサンは何気なく言ったが、この翌年、ジョナサンはアースワンでユリアスと再会することになる。
皮肉なことに、アースワン、日本ではユリアスの遺産はまだ存在していた。
流石に数は少なかった。もう少し多ければ、必ずユリアスはアースワンの恐ろしい男に見つかり、斬獲されていただろうからだ。
「まあユリアスのことはいい。3人で連むという話だ。タルカスはどうしている?」
「実際ただのお巡りさんだ。ユノとも仲良くなったな」
「そうか。だが今は違う。現在タルカスは、城壁外の外環街、サンチャにまで到達している」
「んん?公務でか?今休みとってないよな?俺がいないのに」
「お前の不在など問題ではない。いや、不在だからこそ起きたと言える。王妃は約1万の軍勢とタルカスを伴いサンチャを占領、陣を敷いている。セントラル国軍との武力衝突が目の前まで迫っている」
おい。
「国防軍だぞ?国防の為の軍だぞ?実際は血の気の多い連中に対する雇用政策だぞ?」
本当のところ、国防軍は防衛の為だけに作られたポンコツ軍隊で、半分福祉政策にすぎなかった。
喧嘩等で逮捕した人間を放り込むようタルカスとは話してあったのだが。
お前等ヤンチャしたら国防軍に放り込むぞ。よくある脅し文句だった。
「お前が国防軍を組織した時はそうだったのだろう。お前が愛人と浮気旅行している間に組織は抜本的に改革されている。実際お前のネームバリューは絶大だった。お前からタルカスに受け継がれたドクトリンは猛烈な速度で荒くれ者やニートもどきの若者を、強力な兵に作り替えていった」
だからおい。
「しかも、国防軍の中枢はアカデミーの卒業生達がいる。アカデミーの白い三連星と呼ばれていて、Mー1でも優勝校補の3人ががっちり王妃を守っている」
あいつ等か。特にカルミナ、フォルトゥナ、サンドラはフラさんの直弟子で信頼は厚いしな。
「実際のところ王妃のファンを自称する彼女達は凄まじい求心力で女生徒を集めている。男性兵員をタルカスが、女性兵員を三連星が鍛え上げている。軍事訓練に招待された時、正直恐ろしかった。ファイアーボールしか使えない街の元ヤクザが、恐ろしい練度で侵攻する様は恐怖しかなかった」
やっぱりおい。
「ぶつかるとすればここだ。メゲレ区最寄りの城門の先、キセキガハーラの丘だ」
いや。だからおい。
「俺か?俺の所為なのか?」
「現在王妃は相互平等条約を建前に、セントラルを公的に非難している。お前を解放しない限り、衝突は止まらない。王妃の動きにウェスト・ランド、ダインクーガーは同調している。お前の不甲斐なさが原因でアカデミーとセントラルの間の緊張は高まっている。サウス・フォートは静観しているが、行き着く先は世界大戦になり得る。どうにか衝突前にアカデミーを退らせろ。これはお前が招いたことだロリコン。何とかしろ史上最低のロリコンの変態」
何だかとんでもないことになった。
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