イシノモリ・カノン・エルネスト

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イシノモリ・カノン・エルネスト

学園国家アカデミーの離宮は大いに賑わっていた。 「母ちゃあああああああん!ユノ大丈夫かなあああああああ?!イサク!ヒョウロク!何とかしろおおおおおおい!」 世界最強のおっさんの、誠に情けない声が聞こえていた。 離宮の奥ではお産に際してユノが苦しがっていた。 「俺等にゃどうにも出来ないっすよおおおおおおお!トモエ姉ちゃんどうしよう?!ああああああああ!あのヤリチン野郎ただじゃ済まさねえぞこらああああああ!俺の千早を食らえええええええええええ!」 イサクはヤリチン王を殺す気満々だった。 「騒ぐんじゃないよ男共はどいつもこいつも!別に難産て訳じゃないのにさ!初産ならこんなもんさ。私の時はこんなもんじゃなかったよ。はいユノ、ヒ、ヒ、フー」 「もうちょっとですねお母さん。もう少し子宮口が開かないと」 「やっぱり専門家は頼りになるねえ。コーウェル先生よろしくお願いします」 「お、お母さん。先生は、パパはどこにいますか?赤ちゃんの父親は?」 「あら、あんたは気にせず丈夫な赤ちゃん生みな。男は頼りにならないんだ。いっつも苦労するのは女だけさ」 汗が浮かんだ額を布で撫でて、イシノモリ・トモエはそう言った。 「続けるよ。ヒ、ヒ、フー。ヒ、ヒ、フー」 断続的なユノの呼吸が続き、いよいよ出産となろうとした時、それは飛び込んできた。 「ユノ!ユノちゃああああん!ユノママああああああああああ!」 飛び込んできたのはジョナサン・エルネストだった。 「あらあ!先生もうすぐよ!ユノ!気張りなああああああああ!」 「トモエさん!コーウェル先生!ユノが苦しんでるよ!」 「んふう!ああああ先生!イーライのチョコミント持ってこい!」 「ああああ!ユノまで女神降臨?!」 「ああああああああ!エルネストおおおおおおお!」 「だから何で?!エルネストは俺です!頑張れユノおおおおおおお!」 おぎゃあおぎゃあおぎゃあ! 「よかったああああ!おめでとうユノ!ママ!ユノママ!で?!男の子?!女の子?!」 「可愛い女の子ですよエルネスト先ーー王陛下」 「ああ何だっていいよ!アルテミシア!アリエールも来い!俺の娘だ!」 「あらあら。まあ!めでたいですわ!今度のエルネストベイビーは女の子ですのね!」 胸にいっぱい空気を吸い込んで、生まれたばかりのは、全力で己の存在を周囲に誇示していた。 それはーー。 「ああうるせえ!離宮が崩壊する!」 「ああ父ちゃん!この子凄い気だよ!ユノん時より凄いよ!」 「こりゃあやべえな。ユノん時は母屋の半分が吹っ飛んだ」 「ユノ!グッタリしてんな!生まれた子を宥めろ!ママだろうお前?!」 「お願いしますパパ、グー」 ユノは意識を失った。 「あああ役に立たん!ってああ?!新生児が手を伸ばしてーーあん?」 まだ目を開いてない赤ん坊が、鼻をヒクヒクさせていた。 何だろう、他人とは思えなかった。 赤ん坊を優しく抱いてみた。 落ち着く、ユノによく似た匂い。 赤ん坊は、ジョナサンのうなじの辺りの匂いを嗅いで、落ち着いて寝息を立てていた。 「治まったね。流石はこの子の父ちゃんだねえ。あんた!名前は考えてあったのかい?」 「ああん?坊主だとばかり思ってたからよ。そうだな、坊主ならタモシチだ。タモミってのはどうだ?イシノモリ・タモミちゃん」 「あーうん。俺の匂いをずっと探してたんだな?あー可愛い♡カノン♡イシノモリ・カノン・エルネスト♡パパだぞう」 サゲンタの意見は最初からあてにしていなかった。 「カノンちゃんですのね?ユノ、貴女の赤ちゃんはカノンちゃんですわ。あーもー()いですわ!アリエールのお姉ちゃまですわよ?カノンちゃん♡」 「次はアリエールの番だな。頑張ってくれよ」 ジョナサンの中に、最高の幸せが溢れていた。 眠っているユノの唇を、ジョナサンの唇がそっと塞いだ。
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