おかえりを探す箱の中で

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 ピンポン、とインターホンの音が家中に響き渡った。ハッとした様子で目を覚ました男は、一瞬怪訝そうな顔を浮かべるとぐるりと辺りを見回した。  天井、壁、扉。続いて絵本が綺麗に並べられた本棚、微かに陽の光が差し込む窓へと視線を移したあとに、ようやく手元へと戻ってくる。  ベッドだ。広いダブルベッドで寝ていたらしいことに男はようやく気がついた。  またインターホンが鳴る。来客に出なければと布団から抜け出そうとする男の腕をか細いまだ小さな手が引き留める。 「パパ」  寝起きのくしゃくしゃの髪の毛がゆっくりと揺れ動く。  「あのね。夢を見ていたの」「どんな夢?」「えっと、パパがね」「ああ」「やっぱり秘密」「秘密?」「うん」  はにかむような笑顔が広がる。小さな手は両手で半ば強引に男の手のひらを広げると、片方の手と手を握り締めた。目と目が合い真っ直ぐに向き合う。 「でも、一つ言いたいこと。パパ、おかえりなさい」  男はすぐに反応できなかった。なんて応えたらいいのかわからなかったからではない。突き上げるような感情を隠すのに精一杯だったからだ。  インターホンが催促し、どんどん、と扉が叩かれる。 「おーい。大丈夫か? いるんだろ?」 「今、行く!」  絞り出した声は枯れていた。見慣れた景色が揺れて涙が溢れ出ようとするのを止めることはできなかった。  男はドアを開ける。このままでいいだろう。たまには、泣いたっていいだろう。  開け放した扉の先は、眩ゆいばかりの光が輝いていた。
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