おかえりを探す箱の中で

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 バーの外に出た瞬間、目立つ赤色のドローンが飛んでくる。配信用カメラ。ここからは、すべての行動がドーム内のキャラクターに筒抜けとなる。イズミのいる保育園でもまた、大型の液晶テレビによってヒーローの活躍が映し出される。保育士によると、子どもたちの遊びは中断し、テレビの前で声援を。だが、イズミだけはテレビがギリギリ見えるところまで移動して、一人遊びを始めるらしい。何はともあれ、ここからは俺はヒーローじゃなきゃいけない。込み上げるゲップですら、うかつに出すわけにはいかない。  ピーマンキャタピラーは、俺が付けたニックネームだ。子どもの嫌いな野菜ベスト3にはランクインしているピーマンの顔が、毒々しい色の毛で全身が覆われた毛虫の体の上に乗っかったハイブリッドな怪物。  スマホに送られてきた映像を見ると、イズミが嫌いなピーマン、イズミが嫌いな毛虫が怪物らしい巨大なフォルムとなって全面ガラス張りのドームを襲っていた。青色の空が赤いアラートに染められた。  スマホが鳴った。 「おいおい、移動が速すぎないか?」 「異常な速度です! 外からドームまで、これまでで最高のスピードですね」 「原因は?」 「わかりません。今はただ、駆除に専念を!」 「了解」  全速力で指定の場所へと急ぐ。だが遠い。繰り返されるアラートが焦りと苛立たしさをどんどん募らせていく。  最初は小さな怪物だった。形態がデタラメすぎて対処に戸惑ったものだが、それがイズミの嫌いなもので構成されていることを知ってからは、とにかく弾を撃てばいいと、容易に駆除できるようになった。それでも日に日に巨大化、強大化して脅威が増していくんだ。アラートが鳴ることはまれだったのに、今では毎回アラートが鳴る。違うのはその時間が、遅いか早いかだけだ。 「怪物まで距離500m! 視認は?」 「可能だ。おいおい、ドームにひびが入っているじゃねえか」 「! 至急攻撃を!」 「わかっているって」  どんなテレビや動画を見てたのか知らないが、車もなければバイクもないのに、拳銃だけはある。だからこれをただぶっ放せばいい。  ガラス壁にまとわりつくように付着した毛が、一本一本意志を持っているように動き回る。まさに蟲。非常にグロテスク。でもビビっている姿を、気持ち悪そうな顔も見せるわけにはいかないから、そのまま突っ走る。  普段は強固なガラス壁だが、俺が通るときだけすり抜けられる。ヒーローがヒーローたるゆえんだな。 「外に出たぞ」 「了解! お願いします!!」  コンクリートの地面を蹴って宙を舞う。カッコつけたいわけじゃない。ただ怪物が巨大なだけだ。とはいえ、きっと、この姿を上手い具合にドローンは的確な角度で映し出してくれているのだろう。映画やドラマのように、見るものに鮮烈な印象を残す映像として。  弾丸が放たれた。もちろん、弾は無制限。そしてもちろん、全弾命中する。拳銃なのに大きな爆発が起こり、怪物は黒煙に包まれる。そして。 「駆除終了」  なぜか敵の姿は消えて、壊されたドームの箇所も自動修復していく。赤色のアラートが消えて、青い空が戻ってきた。
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