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「シゲ、よ。俺と夫婦にならんか」重蔵の口から唐突に言葉が紡がれる。シゲは一瞬面食らったが背中を向けたまま小さく首を振った。
「俺じゃぁだめか」
その問いにまたシゲは小さく首を振った。
理由はなんとなくわかっている。容易に語れない事情がシゲたちにはあるのだと思った。
重蔵はこの村の素性にずっと興味はなかった。関心を持たぬことで身の置き所にしてきたと言ってもいい。
今更になってはそれが幾分悔やまれる。重蔵は整ったシゲの髪をそっと撫でて己の想いを昇華させる術を考えていた。
「すまぬが重蔵、今から使いに出てくれんか ー。」
それまでの様をずっと見て見ぬふりでいてくれたヨシハルが声をかけてきた。
「ああ、シゲの手伝いが終わってからでいいなら」と重蔵は答えたがヨシハルは大きく首を振る。
「いや、すぐに出てほしいのだ。また例の男にコレを届けてほしい」
「ここはいいから。重蔵行っておいで」
「そうかー。ならばすぐに支度しよう。だがシゲよ、俺は諦めん。お前でなければやはりだめだ」
重蔵は立ち上がったまま後姿のシゲの肩に手を置き、そして返事を待った。
シゲは振り向くことなく一度俯き、そして一時おいて言葉だけで返す。
「うん…考えておくから早く、ね」
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